【野球】阪神 藤川球児が追いかけた岩瀬仁紀氏の背中

 阪神の藤川球児投手(40)が、今季限りでの現役引退を表明した。

 「粉骨砕身」を貫いたプロ22年間の野球人生。NPB通算777試合登板は球団最多、日米通算245セーブで、名球会入りの資格の大台250セーブまで、あと「5」としている。

 前人未到の記録と、火の球直球でファンを魅了した記憶。レジェンド投手に向けて、引退会見と時を同じくした甲子園球場では、練習開始前に藤川の登場曲が流れた。LINDBERGの「every little thing every precious thing」。かつて、勝利を確信させたメロディーだった。「母親」と表した聖地には、虹が架かっていた。

 昨年4月。抹消期間に一度、引退を決意した。慰留されて翻意したが、決断の背景に偉大な男の存在がある。背中を追い、支えられ続けた絶対的左腕。元中日の岩瀬仁紀氏に、メールで決意を伝えた。

 「岩瀬さんの魂は、僕がしっかり受け継ぎます」

 試合を締めるマウンドは、常に「孤独」だと表現する。そんな唯一の“同志”が、18年シーズンを最後に現役を引退。闘う理由が欲しかった。「年齢っていうものを結果で覆せる世界の中で、岩瀬さんも、もっとできたんじゃないかと思っていてね」。昨季途中にも食事した席で、本気で現役復帰を熱望した。

 抑えに転向して3年目、2008年のことだ。初めて岩瀬に食事に誘われた。「なんでそんなにランナーを出すんですか」。その場で長年抱いた質問をぶつけた。岩瀬からはこんな答えが返ってきた。「ランナーが出ないとなぜか、エンジンが入らないんだよな」。独特の勝負勘がある。その姿がダブり、この一言に救われた。

 「勝っている展開でいくと、なんでかスパって投げられる。岩瀬さんにはもうそれができないから、逆に俺は託されたと思っているんだよ」。絶対的とまで称された岩瀬-藤川が紡いだのは、抑えとしての誇りだ。負けが許されない投手の矜恃だ。魂を引き継いだ男の引き際も、また潔かった。(デイリースポーツ・田中政行)

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