【スポーツ】ボクサーしずちゃんの新たな戦い 入江に与えた影響に「そんなことが…」
アマチュアを統括する日本ボクシング連盟の女子強化委員、普及委員に、お笑いコンビ、南海キャンディーズの「しずちゃん」こと山崎静代さん(41)が就任した。しずちゃんは、テレビドラマのボクサー役がきっかけでボクシングを始め、ミドル級の選手として五輪でボクシング女子が初採用された12年ロンドン大会出場を目指した。
世界選手権で1勝を挙げるなどしたが、五輪出場はかなわず、15年に引退。その後も、かつての仲間の練習相手をするなど、ボクシング界との関わりを続けていたことで、女子の競技普及を目指す同連盟が知名度に着目し、委員を依頼した。
2日のオンラインでの記者会見は、北海道で合宿中の東京五輪日本代表でフライ級の並木月海(自衛隊)、フェザー級の入江聖奈(日体大)ら5選手も参加して行われた。日本女子として初めて五輪のリングに立つ後輩たちに助言を求められたしずちゃんは、当初は「世界選手権でメダルを獲ったりしたすごい子たち。私より全然すごいところにいる」と言葉を選んで話していた。
現役時代は話題性が先行していたように見られたしずちゃんだが、実際には仕事の大部分を抑えて競技中心の生活を送っていた。芸人としての収入は10分の1程度になった。重圧のあまり、公開練習中に泣き出してしまったこともある。今は亡き梅津正彦トレーナーと二人三脚の日々は「自分の人生で一番燃え上がって頑張った経験」。世界選手権での1勝は「(準優勝した2004年の)M-1よりアドレナリンが出た」と言う。芸人としての現在も「あの頃があるから今がある」と心の支えになっている。
今回の委員就任は、そんなボクシングへの恩返しの意味がある。「子どもたちにボクシングの楽しさを教えるイベントをしたい」と青写真を描くが、コロナ禍で思うように活動しづらく、強化・普及への具体案は暗中模索。会見もまず話題づくりからというムードの中で、しずちゃんが相好を崩したのが、五輪出場を決めている入江の話を聞いた時だった。
「山崎静代さんがロンドン五輪を目指した時に自分は小学5年で、テレビでその存在を知った。女子ボクシングの競技人口が少ないことはわかっていたので、盛り上がってうれしいなと小学生ながら思っていました。雲の上の国際大会にたくさん出場されていて、あこがれに近い感情を抱いていた」
20歳の入江の話に、しずちゃんは驚きながら「そんなことがあるんやと、すごくうれしかった。あの時に子どもだった子が、今は世界選手権でベスト8の活躍をしている。私がやっていたことがもしかしたら、ちょっとでも頑張ろうと影響してくれていたらうれしいな」と目を細めた。
自身は五輪に出られなかった。それでも、泣きながらミットを打った日々が、東京五輪のリングに立とうという選手の血肉となっていた。その誇りがしずちゃんの表情に現れた時、言葉があふれ出た。「(五輪では)メダルを獲ってほしい。私のレベルでも五輪に出るのが目標なら出られないよと言われていた。金メダルを目標に、絶対に世界一になるんやと思ってやってほしい」。エールは力強かった。
女子ボクシングをメジャーに-。新しい夢は、若い選手と一緒に追いかける。しずちゃんの新しい“戦い”が始まった。(デイリースポーツ・船曳陽子)