【スポーツ】中村親方、力士のセカンドキャリア支援への“先生役”に
大相撲の中村親方(38)=元関脇嘉風=がアスリートのセカンドキャリアを支援する「APOLLO PROJECT」の受講生第1号として学んでいる。同団体はアスリートの価値を社会に還元することが目的。1日に設立会見があり親方はリモートで参加した。
ラグビー元日本代表の広瀬俊朗氏らが理事を務め、同氏は「アスリートであることは手段。今、コロナでスポーツができなくなっている。今、アスリートの価値が問われている。アスリートから社会を変える」と、設立の意図を説明した。
親方は「力士も全員が関取、親方になれるわけではない。セカンドキャリアはどの親方も悩み」と、相撲界も共通する問題だけに、異業種と交流し吸収することは多い。
大相撲はプロ野球やサッカーJリーグと違い、競技未経験でも“プロ”になれる。義務教育を終え、体格基準、内臓検査などをクリアすれば入門可能。そして、横綱と同じ本場所の土俵で相撲が取れる。一方で十両に上がらなければ、給与(月給)がないなど、“一人前”とは見なされない非情な番付社会だ。
十両に上がるのもし烈。そして、関取になっても誰もが親方にはなれない。定年まで協会に残れる者は一握り。相撲界しか知らない力士が引退後、一般社会で生活していくのは、簡単ではない。
相撲界は相撲部屋で師匠とともに一つ屋根の下で寝食を共にする。師匠にとって弟子はわが子も同じ。志半ばで引退するわが子を心配しない親はいない。
中村親方は昨年秋場所、現役を引退し、今は尾車部屋で後進を指導する。知人を通じ、同団体を知り、相撲界にも通じる試みとして、受講を決めた。
日体大出身で卒業後は角界でなく、地元の大分県で教員になることも考えていた。今回、学ぶことで「いずれ、(後輩らに)アドバイスできるようになれば」と“先生役”となるつもりだ。
学ぶ親方は他にもいる。荒磯親方(34)=元横綱稀勢の里=は4月から早大大学院スポーツ科学研究科の修士課程1年制で研究する。新型コロナウイルスの影響で通学はできずリモート学習。「初めて使った」と言うパソコンに悪戦苦闘しながら、エクセルを使い、リポートも発表する。
やはりテーマは相撲界に関してだ。「力士育成もそうですし、部屋としてどうしていくかも研究の題材。(指導に当たる)平田教授が考えた『トリプルミッションモデル』という『勝利、資金、普及』の3つがうまく回ったところがうまくいくというスポーツ界のモデルを、力士や部屋に当てはめてみたり」。中学卒業後、角界入りし、久しぶりの勉強は新鮮で喜びだ。
両親方は同じ二所ノ関一門で、年も近く、“学び”に関し、意見交換もしてきた。「セカンドキャリアがあれば上を目指す上で目いっぱいできるよね」と2人で話した。引退後の選択肢が増えれば、子供を預ける親への安心にもなる。相撲人口の減少を食い止めることにもつながる。
神事、伝統を継承していくことがもちろん第一。その上で中村親方は「僕は外に目を向けることや、好きなことも多い。ラグビーも好きだし、ラグビーのトレーニングを取り入れたいとも思う。自分がやってきたことを明確にして、1人でも助けになれば」と、思いを語る。
今は新型コロナという危機に相撲界も立ち向かっている。若き親方が異業種から吸収し、相撲界に還元すれば財産。先人の教えとともに新たな知恵は必ず力になる。(デイリースポーツ・荒木司)