【野球】スポーツアナならではな元プロ野球選手の評伝「無名の開幕投手-」が持つ魅力
昨年末に刊行された「無名の開幕投手 高橋ユニオンズエース・滝良彦の軌跡」(桜山社、税別2400円)は、1950年代に活躍した元プロ野球選手の生涯を名古屋・中京テレビ放送のアナウンサー佐藤啓さん(58)が綿密な取材でたどった異色のノンフィクションだ。
佐藤さんの母校・南山大学出身で唯一のプロ野球選手が滝良彦さんだが、その名はほとんど知られていない。佐藤さんが雑誌で存在を知り、中日ドラゴンズや母校の関係者をたどって探し当てる過程から、滝さんが亡くなるまでの交流と、死後の綿密な取材が一冊にまとめられている。
滝さんは1952年に毎日オリオンズに入団した技巧派右腕だった。1954年に高橋ユニオンズで球団初年度の開幕投手を務めるなど、エースとして活躍。高橋ユニオンズはわずか3年間だけ存続したパ・リーグの球団で、滝さんはこの間31勝を挙げたという。
佐藤さんによる滝さんの評伝は、自身の出身大学で唯一のプロ野球選手というだけでなく、プロ野球取材歴30年のスポーツアナウンサーらしい人間的関心に満ちている。戦後のプロ野球動乱期は、豪快なレジェンドたちがひしめいていた。その中で、高橋ユニオンズの同僚だった佐々木信也氏が紹介文で「穏やかすぎるいい人でした」とつづっている滝さんは、異質であったのだろう。そんな心優しく堅実な人柄に佐藤さんが惹かれていることがよくわかる。著者と取材対象者の“縁”が、同書の読みどころでもある。(デイリースポーツ・船曳陽子)