【競馬】残酷な処分…JRA給付金受給問題
「コロナ禍」というのは文字通り、新型コロナウイルスによる不幸な出来事全般を指すわけだが、人間の嫌な部分を頻繁に見る(見せられる)ようになったのも、コロナがもたらした大禍の一つじゃないかと思う。
厩舎関係者による、持続化給付金の不正受給疑惑。いや、「不正」ではなくて「不適切」か。JRAが10日、2度目の調査結果報告説明会を行った。
注目は不適切受給者等への処分の内容で、最も重いのは文書や口頭による「戒告」。ざっくり言えば、厳しく注意するというものだ。「厳重注意」と違うのは経歴に傷がつくところだが、調教師試験を受けるような助手にとっては若干の痛手になっても、個人事業主である調教師や騎手にはほぼノーダメージと言っていい。
一部厩舎従業員に対する「出勤停止」は、たったの5日間。指南役である大阪の男性税理士に至っては特におとがめなしときた。現行の競馬関連法規ではこれが限界だそうな。追加ペナルティーも考えていないというから、事実上、これで幕引きである。
中山競馬場で行われた会見の音声データを聞いてみた。基本的に「モラル」を武器に攻めようとする記者たちに対し、「法」を盾に受け流すJRA&調教師会といった構図。かみ合うわけがない。いや、関係者側がかみ合わないように仕向けたと言うべきか。質問する記者のもどかしさが伝わってくる。
あくまで「不正」ではなく「不適切」が各会の結論となった。違法ではないがモラルに欠けたと頭を下げ、『お金を返すのだからもういいでしょ』、と言わんばかりの強制シャットダウン。法的に微妙なんてことは以前から誰もが分かっていたわけで、それでも世間の大半が納得する落としどころを示してくれると期待していたのだが、結局のところ関係各会の無力さ加減を露呈しただけだった。
現実的な話、この問題が急速に風化していくのはもはや避けられなくなった。処分が明ければ、何食わぬ顔でそれぞれの日常を再開していくのだろう。競馬ファンもどんどん忘れていく。ただ、申請をそそのかした男性税理士、後ろめたさを感じつつもあえて受給した厩舎関係者に、この言葉を贈りたい。
「あなたたちは、決して許されたわけではない」
10年後、20年後、30年後。今の仕事を全うし、自分自身の人生を振り返る場面が必ず来るだろう。その時はぜひ、2021年の春を思い出してほしい。晴れ晴れとした気分で家族と笑い合えるのか。それとも、取り除けない心の澱に悩むのか。
JRAが発表した今回の処分に、当初はいくら何でも甘過ぎると思った。翌朝の紙面でも「大甘裁定」と見出しをつけてもらったのだが、時間がたつにつれて少し考えが変わってきた。
もうどんなに悔やんでも、反省しても、言い分があっても、渦中にいた彼らに謝罪、弁明する機会は二度とやってこないのだ。世の中を騒がす出来事に自分も関係していたことを、一生涯抱えたまま生きていく-。考えようによっては、これほど残酷な処分はない。(デイリースポーツ・長崎弘典)