【野球】熊谷が追い求めたスピード+走塁技術 阪神の貴重なカードになりえるかも

 あのスチールを見ていて、鳥肌が立った。緊迫した場面で捕手に送球すらさせない完璧なスタート。その瞬間、熊谷が新人時代に語っていた言葉を思い出した。「単純なスピードだけじゃなくて、そういう技術も大切だと思うんです」-。その結晶とも言える二盗が同点劇、そして価値ある引き分けを呼んだ。

 11日の中日戦、1点を追う七回。2死から代打・原口が内野安打で出塁した。すぐさまベンチは代走に熊谷を起用。中日側も祖父江から左腕・福に代わった。

 その初球だった。熊谷は福の右足が上がる瞬間、抜群のタイミングでスタートを切った。昨季、捕手盗塁阻止率ナンバー1の木下拓にスローイングすらさせず二塁を陥れた。直前にけん制球があったわけでもない。今シーズン、福が投げる場面で一塁走者になったのも初めてだった。

 おそらく、福のモーションを映像で研究するなど事前の準備をしっかりしていたのだろう。コロナ禍で取材ができないため、推測するしかないのだが…。そう思わせるのは、熊谷が人一倍、研究熱心な性格を持っているからだ。

 2018年の新人合同自主トレ。熊谷のベースランニングに驚かされたことがあった。体力測定で計測した直線的なスピードは同期入団でドラフト4位の島田が速かったが、ベース一周のタイムは熊谷の方が上回った。鳴尾浜で2人のスパイク痕を追うと、二塁から三塁、そして三塁からホームと島田よりも熊谷の足跡が内側を通っていた。

 トップスピードのままベースを踏んで体を切り返し、膨らみを最小限に抑える技術。距離とスピードをロスすることなく、ダイヤモンドを駆けぬけられる要因だが、そう簡単にできるものではない。理由を聞くと「最短で、というのは常に意識しています。実際に足の速い選手を見ていると常に最短距離を走っているので」と返ってきた。大学時代から動画サイトなどで日本ハム・西川など歴代盗塁王の走り方を研究していたという。

 ただ持ち前のスピードに任せて走るのではなく、「どうすればもっと速く走れるか」を追い求めていた熊谷。担当の平塚スカウトも走塁技術の高さを評価し、指名につながったことを明かしていた。

 実際に11日の中日戦ではモーションを完全に盗んだスチールで二塁に進むと、糸原の右前適時打で同点のホームに頭から突っ込んだ。中日外野陣は前進守備を敷いていたが、それをかいくぐって生還できたのも熊谷の技術だと言える。

 試合後、「僕の武器というか、そういうところをしっかりと試合の中で出せたのは良かった」と語っていた。過去に50メートル走で6秒を切るなど足の速い選手はアマチュア担当時代を含めて数多く見てきた。ただ走塁技術を追い求め、細かなところまで研究してきた選手は熊谷をはじめ数える程しか記憶にない。

 今季、代走が主な働き場となっている熊谷の盗塁成功率は4企図で100パーセント。まだ一度も失敗がない。試合終盤で相手も警戒してくる中、確実に二塁を陥れることができる背番号4の魅力。今後、チームにとって勝負手を繰り出す際、“とっておきの一枚”として使える選手へ成長したことを実証したようなゲームだった。(デイリースポーツ・重松健三)

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