【スポーツ】日本一4度の女子ボクサーが広島名物「汁なし担々麺」店長に 「きさく」呉店の新本亜也さん
日本一に4度輝くなどアマチュア女子ボクシング界の第一人者として活躍した広島市出身の新本亜也さん(34)。2019年10月に現役を退き、現在は呉市で汁なし担々麺店の店長を務める。今も現役アスリートの雰囲気を残す元日本チャンピオンは「多くの人に食べに来てもらいたい」と、持ち前のファイトと明るい笑顔で店を切り盛りしている。
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広島名物のB級グルメとして、今やすっかり定着した「汁なし担々麺」。数々の人気店が乱立する中、その元祖として知られているのが「きさく」(広島市中区舟入川口町)。広島に汁なし担々麺の一大ブームを巻き起こした火付け役だ。
昨年7月、「きさく」呉店がオープン。店長に抜てきされたのが新本さんだ。人気店とあって昼時には多くのお客さんが訪れる。厨房に入った新本さんは麺をゆでると、スープが入った器に移し、ひき肉や青ネギ、温泉卵を手際よく盛り付けていく。辛さは5段階から選べる。「お客さんから『おいしい』と言ってもらえた時が一番うれしい」
アマチュア女子ボクシングの元日本チャンピオン。それが新本さんの肩書きだ。ボクシングを始めたのは15歳の時。広陵高でボクシング部に入部した。「最初は興味本位。人と違うことをやってみたかったんです」。すぐに魅力にはまり、大学は埼玉の平成国際大に進学。4年時の08年に全日本選手権を制して初の日本一に輝くと、その後も10、14、16年と計4度、日本一の座に就いた。
国際大会でも10年の広州アジア大会で日本人女子では初メダルとなる銅メダルを獲得。11年のインドネシア大統領杯では現世界王者の村田諒太、井上尚弥らとともに団体優勝を果たすなど世界を舞台に活躍した。ボクシングに挑戦した南海キャンディーズの山崎静代(しずちゃん)とも一緒に海外遠征し、強化合宿で汗を流した“戦友”。今でも連絡を取り合う仲だ。
国内外で数々のタイトルを獲得してきた新本さんだが、どうしても手が届かなかったのが五輪出場だった。12年ロンドン、16年リオと出場を逃し、19年10月に行われた東京五輪の代表選考も兼ねた全日本選手権も準決勝で敗退。17年間のボクシング生活にピリオドを打つことを決めた。
「生活のすべてをボクシングにささげてきました。これ以上ないくらい練習もやってきたので『これだけやって負けたら仕方がない』という気持ちでした。五輪には出たかったけど、やりきったという思いが強かった。悔いはありません」
広島の食品会社に勤務しながらボクシングを続けてきた。その会社が「きさく」と提携し、呉市と福山市に店を出すことになり、新本さんに呉店店長として白羽の矢が立った。「最初はびっくりしたけど、学生時代も飲食店でアルバイトしていたのでやっていける自信はありました」
営業時間は午前11時から午後3時までの昼のみ。朝は会社の配達業務を行い、その後、店に入る。「お客さんがどれだけ来ても大丈夫」と常に冷静沈着。厨房で調理しながら店内にもしっかりと目配りし、パートさんにテキパキと指示を出す。「ピンチに追い込まれても慌てることはなかった」という現役時代の経験が生きている。ボクシングを通して出会った人たちが店に来てくれたり、通販で購入してくれることも励みになっている。
現在も完全にボクシングから離れたわけではなく、高校生を指導したり、ジムに来る子供たちにもアドバイスを送る。「引退してめっちゃ太りました」と笑うが、暇を見つけて筋トレやランニングも続けており、雰囲気は現役アスリートのまま。「現役復帰?やろうと思えばできると思いますけど可能性は低いかな。今はちょっと休憩中。体を動かすことが好きなので、また何か打ち込めるものを見つけたい」。元日本チャンピオンの新たな挑戦が楽しみだ。
(デイリースポーツ・工藤直樹)
◆新本亜也(しんもと・あや) 1986年12月10日生まれ。広島市出身。中学時代は陸上部で中距離選手として活躍。広陵高に入学しボクシングを始める。平成国際大卒。全日本選手権で優勝4度(フライ級2回、バンタム級2回)。国際大会では10年のアジア選手権で銅メダル、同年の広州アジア大会で銅メダル。11年アジアカップで銀メダル。同年のインドネシア大統領杯では個人銀、団体では優勝を果たす。19年に10月に引退。通算成績は90戦70勝(32RSC)20敗。
◆「きさく」呉店 広島県呉市天応南町1の20(TEL0823・38・0234)JR呉線・天応駅から徒歩5分。駐車場あり。営業は火~日曜11~15時。月曜定休。
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