【野球】92年もヤ、巨、虎の三つどもえレース 思い出すノムさんの“奇襲”
もし成功していれば、日本野球がメジャーの流行より、一歩先を行っていたかもしれない。阪神が8月29日の広島戦で敗れ、5カ月間守った首位から陥落した。今後、セ・リーグの優勝を巡って巨人、ヤクルト、阪神の3チームによる、壮絶な三つどもえの争いが繰り広げられることになるだろう。
その状況はまさに1992年のペナントレースをほうふつとさせる。この年、私は野村ヤクルトの担当記者だっただけによく覚えている。最終的にヤクルトが14年ぶりの優勝を飾った。ヤクルトは8月の時点で2位に最大4・5ゲーム差をつけていたが失速。9月2日の試合終了時点では首位ヤクルト、2位巨人、3位阪神が3ゲーム以内にひしめく混戦模様となっていた。
実は9月2日のヤクルト-巨人戦で、故野村監督らしい“奇襲”が相手チームをあぜんとさせていた。その“奇襲”とは、現在MLBでよくみられるようになったオープナーだ。オープナーとは本来、リリーフで起用する投手を先発させ、短いイニングで交代。その後、本来先発させるはずの投手を、ロングリリーフとしてマウンドに上げるというものである。
MLBで2018年にレイズが本格的に採用し、その後は他のチームに広まってきている。日本では日本ハムが2019年の西武戦で加藤貴之を先発させたものの2回で交代。その後、金子千尋をマウンドに送ったケースから注目されるようになってきた。だが、MLBに比べると圧倒的に数は少ない。
だが、私は世界に先駆けて意識的にこのオープナーを起用したのは、野村監督が最初だと思っている。この試合まで野村監督は「巨人には神宮で22、23本のホームランを打たれている。それだけは避けなければいかない」と策を練りに練っていた。そこで出した結論が、本来先発で起用しようと考えていた、大ベテランの新浦壽夫を2番手として起用。巨人があまりデータを持っていない、入団2年目の小坂勝仁を先発させる作戦だった。
小坂は入団1年目から1軍で登板はしていたものの中継ぎ、敗戦処理が中心でプロ未勝利の選手だった。プロ6年間で先発したのは後にも先にもこの試合1回だけである。結果的に小坂は1回無失点で降板したものの、2番手を任された新浦が、駒田徳広に24号3ランを浴びるなど5回を投げて6失点と大乱調。終わってみれば2-9と大敗を喫してしまったのだ。
試合後、ノムさんは「コントロールと配球で勝負するピッチャーが両方ダメでは」とボヤいたのを鮮明に記憶している。その“奇襲”も実らず、9月5日からヤクルトは9連敗。9月13日の阪神戦で広沢克実が痛恨のトンネルでサヨナラ負け。首位から陥落しその後、3位にまで転落した。
もし、9月2日の“奇襲”が成功していたら、どんなペナントレースになっていただろうか。逆に波に乗ったヤクルトが最終戦を待たずして優勝を決めていた可能性もある。そして、NPBにMLBより先にオープナーのブームが来ていたかもしれない。(デイリースポーツ・今野良彦)