バスケ女子・恩塚亨新監督が目指す「世界一のアジリティ」と「夢」とは

 東京五輪で女子バスケットボール日本代表が日本バスケ史上初の銀メダルを獲得してから1カ月以上が過ぎた。監督を務めたトム・ホーバス氏の男子代表監督就任も発表され、バスケットボール界は早くも24年パリ五輪へ向けたスタートを切っている。

 同時に、銀メダルメンバー5人を含む新生女子代表は今、27日に開幕するアジア・カップ(ヨルダン)の5連覇を目指して合宿に励んでいる。今大会監督として指揮を執るのは21日に女子代表新監督就任が発表された恩塚亨氏(42)。8強だった16年リオ五輪ではアナリストを務め、東京五輪ではアシスタントコーチとして偉業に貢献した。「目標はパリ五輪で金メダル獲得。そのために世界一のアジリティを追求して、身長をアジリティの高さで凌駕したいと考えている」と掲げ、チーム作りに乗り出した。

 アジリティとは直訳すると機敏さ、素早さ、敏しょう性といった意味だが「ネクストプレーの速さや適応力のこと」と恩塚氏は言う。「状況に応じて素早く、原則を生かして、協力して自分たちの強みを発揮することを指す」。最終的に目指すのは「瞬間瞬間の勝負で先手を取り、チームが躍動感を持ってシンクロするバスケット」だ。東京五輪代表選手や候補合宿に参加してきた選手は、これまでのスタイルと比較し「今はよりオールラウンドなプレーが求められる」と口をそろえた。

 トム・ホーバス体制では、選手は100を超えるフォーメーションを覚え、臨機応変にその引き出しを開けながら戦ってきた。とはいえSG林咲希(26)=ENEOS=らが3点シュートを打ち続けたように、役割分担はハッキリしていた。

 最年長で主将としてアジア・カップへ臨む林は「五輪と同様のプレーをしないことがキーポイント」と言う。「スリーポイントにこだわることを、今はあまりやっていない。一人一人がいつでもチャンスを狙う気持ちでやるのが大切」と林。東京五輪で主力として戦った赤穂ひまわり(23)=デンソー=も「五輪でも自分の仕事は中に攻め込むプレーだったけど、今回はいけるときはどんどん攻めてと言われている。チャンスを逃さず攻めることにチャレンジしたい」と話した。

 選手に浸透しつつある常に「チャンス」を探る姿勢。そこには「バスケット界を変えたいという個人的な思いがある」と恩塚氏は語った。

 これまでのさまざまな指導経験の中で、コーチの指示に従うことを優先して、攻撃のチャンスを見落としてしまう選手を何度も見てきた。「私なんて…」と口にし、自信を持てない代表選手も少なくないことを知った。だからこそ、壮大な野望を胸に代表チームの指揮を執る覚悟を固めている。

 「このチームの強化の肝は目的の設定にある。目的はバスケット界に夢を残すこと。夢を残すこととは何か。私たちの挑戦を見た人が、私も頑張りたいと、夢を抱けるようになることを意味する」と恩塚氏。「バスケット界のロールモデルになりたい」とまっすぐに語った。

 戦術面で言えば「ナンバープレーで選手がロボットのように動くのではなく、フリーで選手が混乱することもないバスケットの仕方を追求する」と恩塚氏。「選手が自信を持って判断するバスケットの追求」が鍵となる。

 攻守が入れ替わった瞬間、味方が攻め込んだ瞬間、味方のサポートに回る瞬間、シュートを打つ瞬間-。バスケットボールにはさまざまな瞬間が存在し、それらはめまぐるしく展開する。その1つ1つの「局面」にチームとしての「原則」を定めることで、コート上の5人が同じ絵を描くことができ、だからこそチームの最適解を選択することができると考えている。

 もちろん、「原則」を選手に理解してもうことは時間がかかる上に、それを体現させることは容易ではない。それでも「どんなことを考えたらいいのか、ちゃんと理解ができて初めて、コート上で自分が自信を持ってプレーできる選手になれる」。そして「それが一番結果が出ると思っている」とも語った。

 東京五輪決勝の米国戦、3点シュートを徹底して防ぐ相手に対し、選手が自ら判断して次なる一手を繰り出すことはできなかった。だからこそ、米国の高い壁を越えるには、より早く正確な判断力を求める必要があると考えたのだ。

 「代表チームは結果が全てだと理解している。だからこそ、代表チームという重責の中で、それでも理想を語り、理想へ挑戦し続けることができたら、夢を残せるのではないか。私たちの金メダルへの挑戦で、私も夢を抱いて挑戦したいと思う人が増え、そんな人であふれるバスケット界になっていたとしたら、私たちの目標も目的もどちらも達成できると信じています。ワクワクがあふれるバスケット界に皆さまと共に向かっていけたら」

 まずは若手中心で臨むこのアジア・カップが代表監督としての初陣となる。「目標は優勝です。それ以外考えてない」。選手も「優勝」と力強く断言した。

 日本は五輪銀メダル国とは言え、世界ランクは現在8位。同組には同19位の韓国がいるほか、決勝トーナメントでは3位のオーストラリアや7位の中国との対戦は必至だ。5連覇への道のりは決して楽ではないが、過去4大会譲らなかったアジア女王の称号を、奪われるわけにはいかない。日本バスケ界の未来を切り開くために、「夢」を信じる恩塚氏の挑戦が幕を開けようとしている。(デイリースポーツ・國島紗希)

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