【芸能】コロナ禍とアーティスト ドレスコーズ・志磨遼平に聞く 新作はコロナ禍の産物
昨年から世界を覆っているコロナ禍は、アーティストにどのような影響をおよぼしたのか。今夏にニューアルバム「バイエル」を発表した1人音楽ユニット「ドレスコーズ」の志磨遼平は、本作が「はっきりそう(コロナ禍の産物)という感じ」であり、時代の影響を受けた作品ができることが「2015年頃からわりと多くなってきました」という。(前編)
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日本ではアーティストがトピカルなテーマを取り上げることが忌避される傾向が強く、志磨も「トピカルなことは音楽に影響しなかった方」だった。
国内シーンの傾向としても「2000年頃までは、世の中とは無関係でいたいっていうようなところがあったんですね、僕が思うには。槍が降ろうが戦争が起ころうが、そんなこととは無関係に、自分の世界に閉じこもっていたいというようなところがあった」と志磨はみている。
転機は11年の東日本大震災で、志磨は震災を「いかなる人も巻き込まれざるを得ない大きいトピック」だと指摘し、「自分たちの中ではすごく大きい体験だったんでしょうね」と振り返る。震災とそれに伴う福島第一原発の事故が起きてから、アーティストの社会的な発信が目立ったのは記憶に新しい。
音楽を「作って届ける人」=アーティストと「受け取る人」=リスナー。その関係は「現実を忘れるようなというか、ひとときの気晴らしになればっていうようなところがそれまであったと思うんですけども、どうしても目をそらせない現実というか、音楽が立ち向かえないほど大きい現実みたいな、そういうものに初めて出くわしたという感じがありました」と、いや応なく変質した。
コロナ禍は「世界中が同じ問題を共有」しており、より規模が大きい。震災からコロナに至る中で、志磨も「音楽のテーマというか題材みたいなものが、徐々に自分の内面みたいなものから外の社会に向くようになった」という。とはいえ、往年のプロテストソングのように直接的な言葉は避けている。
「人をどちらかへ誘導するような言葉を使わないというか、そういう目的で音楽を使わないというふうには、無意識的にそういう言葉を選んでいるような気がしますね」
終末を歌った前作「ジャズ」でもそうだったように、ドレスコーズの作品は寓話性が強い。志磨は「やっぱり、個人でありたいと思う。僕の好きな音楽はそういう音楽であったので。みんなでこうしようとか、みんなの力を合わせようとか、僕の中でそういうものと音楽は正反対にあるもの」と説明する。「不要不急」といったキーワードは使いつつも、その姿勢が作品に普遍性をもたらせている。(後編に続く)