【芸能】ドレスコーズ・志磨遼平 コロナ禍で芸術不要不急論「芸術家はそういう時こそ燃える」
昨年から世界を覆っているコロナ禍は、アーティストにどのような影響をおよぼしたのか。今夏にニューアルバム「バイエル」を発表した1人音楽ユニット「ドレスコーズ」の志磨遼平に聞いた。(後編)
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音楽面にも、コロナ禍が影響をおよぼしている。「バイエル」はステイホーム中、ピアノ初心者の志磨が初心者用ピアノ教本「バイエル」を始め、当初はピアノアルバムとして構想された。その構想には集まらずに作るというコロナ禍ならではの方針が内蔵されており、その名残は完成作品に見て取れる。
「スタジオに集まって熱のこもった演奏をすることが難しくなりましたし、バンドで演奏していること自体がリアリティーなく思えて。去年の春以降そういうことができなかったじゃないかと。そのできない中から生まれた曲でもあるので。それにはすごく物足りない演奏っていうものがふさわしいんじゃないかと。なので、バンドで録ったものでも、楽器が少し足りていない、なんだか熱がこもっていないっていうようなものを目指して。どこかいびつでちょっと欠けている、あるいはピアノだけで」
その結果、はかなげで夢のような、コロナ禍の影響を受けていながらも、「ちょっと現実味のない」アルバムが出来上がった。
コロナ禍では芸術、娯楽について「不要不急」のような言い方をする向きもあった。
志磨は「生活を全て(芸術や娯楽に)ささげてるような人からすると、作品が受け入れられるかどうかは考えるものの、必要かどうかっていうことを考えたこともなかったので、そうか、そこからかっていう感じ」と、送り手側の心情を説明。一方で「芸術とかそういう表現は、逆境にこそ燃えるところがありますので、創作意欲みたいなものはすごく駆り立てられるところがあって」という自分がいることも認める。
「芸術みたいなものは価値であるとか答えであるとか、そういうはっきりしたもののない、現象ですから。近代的な文明の中で生きていると、ホントにアートしかないんですよ、物差しのない、必要か必要でないかとかでない行いというか」と、その特殊性を説明。
その上で「そういうものに触れないで生きていくと、ホントに価値とか、既にある答えとか、常識みたいなこととか、時代の流れとか、そういうものから逃れられなくなるっていうんでしょうかね、自分の思考が。(そうなると)僕は案外つまらないと思っていて。そういうところでは非常に生きにくいなと。日本がそういう国になるのなら、すごーく生活がしにくいだろうと思うので」と、芸術や娯楽の社会における役割を解説した。
芸術や娯楽がない、現実だけの世界。歴史を見ても、非常時には真っ先に統制されるのが芸術や娯楽だ。志磨は「それが実際ちょっと始まっているという感じですよね。必要でないことはやらないでくださいっていうのは」と危惧しつつも、「芸術家はそういう時こそ燃えるものなので、待ってましたと思う自分もいるという、すごくアンビバレントな感じですけど」と、創作への糧としてもとらえていた。(デイリースポーツ・藤澤浩之)