【スポーツ】「オリンピックスタイル」定着の好機 アマチュアボクシング界の躍進

 ボクシング全日本選手権が先月末に東京・墨田区総合体育館で行われた。女子は東京五輪フェザー級金メダルの入江聖奈(日体大)、同フライ級銅メダルの並木月海(自衛隊)、男子はミドル級の東京五輪代表・森脇唯人(同)らが優勝。入江は出場した2試合ともRSC勝ちと圧勝し、女子の最優秀選手に選ばれた。

 無観客ではあったが、地方開催だったこれまでと違い、五輪会場の両国国技館のある墨田区での開催。例年以上に活気が感じられたのは、入江らの五輪メダルに続き、今秋の世界選手権で岡沢セオン(INSPA)、坪井智也(自衛隊)が金メダルを獲得したことが大きいだろう。

 大会を通じて改めて感じたのが、プロとは違う独自性だ。野球やサッカーの「アマチュア」は「プロ」の下部カテゴリーと考えられるが、ボクシングはルールや試合形式が違うため、同様には位置づけられない。「アマチュア」と呼ばれる別の競技で戦っているイメージだろう。

 プロで4団体を制覇した高山勝成は、アマチュアに挑戦した際に「マラソンと短距離走くらい違う」と言っていた。3分3ラウンドに凝縮されたアマチュアの試合では、相手にいかに大きなダメージを与えるかが重要なプロとは違い、クリーンヒットの数が鍵になる。プロならどれだけ打たれても一発逆転KOがあるが、アマチュアではダウンを取られてもヒットの1つとしてカウントされるだけだ。

 また、短い試合時間での攻防は、一度流れを失うと取り戻すのも難しい。それゆえアマチュア選手は技術のバリエーションや瞬時の判断力を磨く。高いレベルの試合は、将棋やチェスをほうふつとさせる戦略的な攻防が垣間見える。

 今年9月に行われた井岡一翔のV3戦で中継のゲストだった入江は、相手のアッパーの威力や井岡の高い防御を「なぜそうなるのか」という理由を交えて解説していた。自身初のプロ観戦とは思えないほどわかりやすく的確だった。日頃から競技を理論的に分析しているからこそ、即座に言語化できたのだろう。

 「アマチュアボクシング」は、海外で「オリンピックスタイルボクシング」とも呼ばれている。競技性の違いに加え、16年リオデジャネイロ五輪からプロ参加が認められたことを鑑みれば「アマチュア」と呼ぶより的確かもしれない。

 岡沢が「プロのアマチュアボクサー」を名乗り、自らスポンサー獲得に乗り出したのは「アマチュアボクシングの面白さを伝えたい」という思いからだった。トップ選手になると「次はプロ入りか」と聞かれることもあるが、「プロ」になれない「アマチュア」と捉えられることに違和感を持つ選手も多い。

 一方で、高校、大学を卒業後に競技を続ける環境は自衛隊体育学校に所属する以外はほとんどない。あとは教員や国体要員として各都道府県から支援を受けているのが現状だ。日本連盟のアスリート委員長を務め、五輪後に引退を表明した成松大介氏(自衛隊)も連盟に環境づくりを要望している。

 それでも東京五輪、世界選手権での日本勢の活躍が、厳しい状況の選手に「自分たちもやれる」と活力を与えたことは間違いない。来年9月にはアジア大会(中国・杭州)が行われ、24年パリ五輪も3年後。日本勢が活躍する場は用意されている。世界的に存在感が高まる中で、国内でも「オリンピックスタイルボクシング」を定着させる好機かもしれない。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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