【野球】水島新司さん死去で思い出すドカベン香川のセリフ「体重で野球してへん」
野球漫画の第一人者と呼ばれた水島新司さんの訃報に接し、思い出されるのがプロ野球の南海、ダイエーで活躍した香川伸行さん。「ドカベン」の主人公・山田太郎を思わせる容姿で人気を集め、スポーツ紙の“主役”としても話題を振りまいた。大阪球場を舞台に暴れ回っていた?当時の記憶が蘇ってくる。
香川さんが履くスパイクには“ドカ”という文字がマジックペンで書かれていた。ドカベンの愛称はいつしかドカに変わり、当人も気に入っていたようだった。
「ドカ、きょうの体重なんキロや?」
「体重で野球してへんて言うてるやろ」
体重が100キロを超えると、そんな会話が当たり前になり、時にムキになって返してくることもあった。
それでも我々担当記者にとって、なくてはならない貴重な存在だった。
当時、南海にはドカのほかに求道者のような門田博光や、ドラキュラ伯爵よろしく山本和範がいた。カド、ドカ、ドラのホークス英雄三銃士。だが、最もキャラが立っていたのはドカだった。
そして、ここにゴジラこと穴吹義雄監督も加わり、話題に事欠くことはなかった。
「ドカはもっと体重を落とさなあかん。オフは副業禁止や!」
「副業は向こう(業者)が持ってくるんやから、しゃあないやんか」
監督と選手の間接的なこんなやりとりを、コミカルに仕立てたものだった。
「最近、僕の名前があんまり新聞に載らんな」とドカが不満を漏らしたこともあった。そのころは特に弱く、それだけにみんなで、リップサービスをしてくれていたのかもしれない。
ドカは一見、チャランポランに見えるが、中には「実はまじめ」と言う人もいた。
確かにそんな一面もあった。広島の呉二河野球場での春季キャンプ。突然、1人で早朝特打をやったのには驚いた。
球場から宿舎への帰り道でノンビリ歩きながらの取材。40年近く遡る話だが、その年は特に寒かった記憶がある。
そんなドカに、にじり寄られて責められたことがあった。
「僕の彼女が失踪したんや」
実はドカの初婚に際し、彼女の身辺を嗅ぎ回ったことがあった。
しばらく音信が途絶えたことで、「失踪した」と勘違いしたのかな。ただ、ドキリとさせられたのは確かだった。
その彼女との結婚式で媒酌人を務めたのが水島新司さん。野球を愛し、特に捕手というポジションに敬意を払った水島さん。ドカは特別な人だったのかもしれない。
香川伸行という選手には、私も少しばかり思い入れがあった。彼の出身校の浪商(現大体大浪商)はかつて大阪・茨木市にあり、野球部の練習をよく見に行ったものだ。
対戦することもあった。ドカとは入れ違いで面識はなかったが、大阪で高校野球と言えば浪商というのが私の勝手なイメージ。そこは安威川のほとり。家から自転車で数分の距離だった。
その“地元のヒーロー”が南海に入団し、若くして大きなステージに上がり、引退したあとは、「今度、うどん販売すんねん」。
奔放な性格のままに生きて、あっという間に逝ってしまった。
今でも思い出すのは丸い顔にクリンとした目、時々見せるとんがらせた口。愛嬌いっぱいの男だった。(デイリースポーツ・宮田匡二)