【競馬】福永祐一以来の快挙!新人ジョッキー・角田大河の成長が楽しみ
大物ルーキーに注目だ。3月に誕生した10名のJRA騎手。中でもひときわ目立ったのが角田大河(18)=栗東・石橋。初騎乗初勝利から2連勝と衝撃デビューを飾った。
競馬学校が創設されてからは2例目。96年の福永以来26年ぶりの快挙だった。「まだまだ足元にも及ばない騎乗ですが、福永さんがこうやってトップで活躍されているので、同じ事として扱っていただけるのは光栄に思います」と大河。まだあどけない表情だが、ハキハキとした口調で喜びを表現した。
今から3年4カ月前のこと。競馬学校騎手課程第38期生として合格した角田大河について、父・角田晃一調教師を取材し、オピニオンD(18年11月13日掲載)で記事にした。角田師が騎手の道を歩んだ経緯。そして、自らが身を置いた世界に続く、長男・大和と次男・大河について、親としての心境を語ってもらった。「好きなことを一生、仕事にできるのは幸せなこと」。角田師が語った言葉が心に響いた。
父の背中を見て育った大河にとって、騎手を目指すのは自然だった。「父が騎手で、馬が身近な存在でした。でも、乗馬を始めたのはジョッキーになりたいからではなかったんです。乗馬をやっているうちに、周りにジョッキーを目指す子がいて自分もやってみようかな、と。競争の激しいなか、活躍するジョッキーってすごいなぁと思いました」。小学校の同級生でもある同期の大久保友雅、今村聖奈らと切磋琢磨して技術を磨いた。
努力と苦労を重ね、ようやくたどり着いた憧れの舞台。その初日に迎えた阪神1Rがデビュー戦。パートナーのメイショウソウゲツは初めての千八で単勝8番人気の伏兵だった。2番手を手応え良く追走すると、他馬に早めにかぶせられても慌てずに対処し、直線は3頭の追い比べ。福永、岩田康のトップジョッキー相手に一歩も譲らず、新人離れした騎乗で初勝利を飾った。「勝つ感覚を馬に教えてもらいました。初めてだったので(検量室前に)戻って来る時に改めて勝ったんだと実感しました」と振り返る。
続く2Rは師匠・石橋調教師の管理馬メイショウトールで差し切り勝ち。自厩舎で挙げた勝利に「感謝しかないです」と喜びをかみしめる。デビュー週は8頭に騎乗して2勝、2着1回、3着2回。冷静な騎乗でしっかりと追う姿に記者も驚かされた。「たくさんのいい馬に恵まれて、2勝もさせてもらって。そのなかで勝てなかったレースもあって、2着、3着と取りこぼしたレースもある。コーナリングなど新人らしいミスが多々ありましたし、これから一刻も早く正していきたいと思います」。自己分析力にたけていて、謙虚さもある。そして頭の回転が速い。18歳とは思えない人柄に思わず肩入れしたくなった。
例年だと並行して第3場のローカル開催が行わていたが、今年は阪神、中山の2場開催。トップジョッキーがそろう中央場所だけに、新人騎手にとっては厳しい門出となった。それでも、「2場だと騎乗数も少ないので“2場か…”と思っていましたが、トップジョッキーが集まるなかだったので、すごく勉強になりました」とポジティブに捉えるのも彼の持ち味だろう。
「自分は厳しい父親」。父・角田師がこう話すように、大河は少年時代から厳格に育てられた。ジョッキーとなった今は、師匠の石橋調教師が父親代わりの存在だ。
どんな弟子なのか、どう向き合ってきたのか-。師匠に直撃した。「親が調教師で恵まれた環境なので、それに甘んじないように。礼儀や感謝の気持ちについては常々言ってきた。最初は下手なのが当たり前。失敗しても乗せてもらえるかどうかは、礼儀や感謝の気持ちが伝わるかどうかだと思う。この先、いくら勝っても、甘い心を持たないことが大切」。元ジョッキーの調教師らしく、厳しい言葉を投げかける。
騎乗技術に関してはどうか。「まだまだでしょ。技術は経験を積んでうまくなるもの」。そう言ったあと、「でも、スタートはうまいよね。センスだと思う」とうなずき、少し優しい表情を見せたのが印象的だった。
デビューから3週連続Vと、早くもJRA4勝を挙げた大河。長く新人のデビューを見てきたが、冷静で腹の据わった騎乗に映る。“福永以来”と同じ記録として取り上げられた福永Jにも印象を聞いてみた。「落ち着きがあるよね。レースで落ち着けるのってセンスだから。それに、騎座(騎手が馬にまたがった時の脚部のこと)もしっかりしている」。この先ライバルとして育ってくる若手を頼もしく感じているようだった。
大河を取材して感じるのは実直な姿だ。「今になって父のすごさを感じ、自分の甘さに気づかされます。“勝ってかぶとの緒を締めろ”です」。幼なじみで同期の今村聖奈も2勝目を挙げて追随する。いずれ、大舞台で活躍するであろう、若武者の成長が楽しみでならない。(井上達也)