【競馬】ヴィクトリアMで牝馬限定G1完全制覇へ 福永祐一騎手の“仕事の流儀”とは

 阪神牝馬S2着のアンドヴァラナウトとともに、ヴィクトリアマイル制覇を目指す福永祐一騎手
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 今週、春の古馬牝馬の頂点を決めるG1・ヴィクトリアマイル(15日・東京)が開催される。武豊騎手、蛯名正義元騎手、ルメール騎手に続く史上4人目の牝馬限定G1完全制覇が懸かる福永祐一騎手(45)=栗東・フリー=は、アンドヴァラナウト(牝4歳、栗東・池添学)で臨む。

 昨年秋のことだった。同馬への思いを通じ、福永騎手のジョッキーとしての“流儀”に触れる機会があった。

 紫苑Sをファインルージュで制覇。翌週のローズSはアンドヴァラナウトを勝利に導いた。ともに秋華賞が目標。頭に浮かんだのは、どちらに乗るのか?という疑問だった。桜花賞とオークスで騎乗してきた前者なのか、デビューからコンビを組み続ける後者なのか-。気になったので、ローズSの翌週、「2週連続重賞制覇おめでとうございます。うれしい悩みになりましたね」と、声を掛けた。

 「悩みなんてないよ」。こちらの胸の内を理解してか、穏やかにそう応じてくれた。後日、オーナーサイドから、アンドヴァラナウトで本番に臨むことが発表。「新馬から乗ってきて、結果が出ない時も厩舎や牧場と話しながら一緒に馬をつくってきたしね」。理由はシンプル。人や馬とのつながりを大事にする祐一騎手らしい選択だった。

 自然と2003年のことを思い出した。朝日杯FS覇者で、弥生賞も制したエイシンチャンプと、4戦3勝できさらぎ賞を勝ったネオユニヴァース。ともに瀬戸口厩舎の管理馬で、自身とのコンビで重賞タイトルをつかんだ素質豊かな若駒だった。どうしてエイシンチャンプとのコンビでクラシックに臨むことになったのか-。競馬記者になる前から気になっていた思いを以前、ぶつけてみたことがある。

 「あの時は、俺も若かったからね。周りの大人たちに助けてもらったよ」

 先にG1を制したのはエイシンチャンプだった。その恩を大切にし、筋を通す選択をした。2頭を手掛け、自らをバックアップしてくれていた瀬戸口元調教師や、師匠の北橋元調教師は何も言わず、そんな若い福永騎手が下した決断を支えてくれた。調整役として陰で周囲に頭を下げてくれたこともあっただろう。それを知るからこそ、20年近くが経過した今も、感謝の気持ちを忘れることはない。

 もちろんジョッキーである以上、より走る馬に乗りたいと思うのが本能で、そこが基準になることはある。ただ、どんな時でも常に仁義の心を失わなかった。だからこそ、多くの関係者から信頼され、大事な手綱を託されてきたのだと感じる。

 一流ジョッキーとなった今も持ち続けている心。日本競馬界随一の冷静な分析力を誇る戦略家である一方、こうした人間味のある部分を兼ね備えているのが、福永騎手の魅力だと私は思う。現場にいた昨年末までの10年以上、いろいろな話を聞かせてもらったが、いつもワクワクする取材対象だった。

 そんな祐一騎手が「まだまだ粗削り。ほんまに良くなるのは来年やと思う」とジャッジしていたのが昨秋時点のアンドヴァラナウト。落馬負傷中だった2走前以外は、ずっとコンビを組んできた素質豊かなパートナーだ。

 前走の阪神牝馬S(2着)は、本番に向けた確認をしつつ、レースを組み立てているように感じた。自身は牝馬限定G1完全制覇が懸かるが、その記録より、デビューからともに歩んできた相棒や陣営とビッグタイトルをつかみたいという思いが強いはずだ。豪華メンバーがそろったものの、十分にチャンスがある一頭。人馬がどんな競馬を見せてくれるのか、今から週末を心待ちにしたい。(デイリースポーツ・大西修平)

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