【野球】大谷翔平の一言が昨季本塁打王ゲレロを笑顔にさせた「もうホームランは打たないでね」
ずっと笑っていた。2人が生み出す心地よい空気。フィールドから遠く離れた記者席から見ていたこちらも笑顔になった。
エンゼルスの大谷翔平投手とブルージェイズのウラジーミル・ゲレロ内野手。昨季は終盤までし烈な本塁打王争いを繰り広げた両雄が一塁上で言葉を交わしたのは28日の試合の七回だった。
ブルージェイズの剛腕リリーバー、メリーウェザーが投じた158キロ直球が右肘に装着した防具をかすめた。ひやりとした1球。本拠地がどよめいた。球審の死球判定に従い、一塁へ歩いた大谷はビデオ裁定を待つ間、23歳の若き主砲の左肩に右手を置いて言葉を発した。
メジャー5年目。大谷は打席に入る前に敵軍ベンチの監督に目であいさつし、球審と捕手に声を掛けている。塁上で敵軍選手と会話をすることは全く珍しいことではない。ただ、いつもと違ったのはわざわざ自分から相手の肩に手を置く行為は記憶にない。
シリーズ最終戦、29日の試合後のクラブハウスでゲレロが通訳を介して明かしてくれた会話の一部は秀逸だった。
「彼は僕に向かってこう言いました。『いいかい、もうこれからはホームランを打たないでね』って」。
その2日前の26日。大谷が「2番・投手」で投打同時出場した試合で2人は対じ。2打席無安打で迎えた六回の第3打席でゲレロはカウント1-1から外寄り高めのカーブを左翼ポール直撃のホームランにしている。
大谷の一言はこの打席を踏まえてのもの。普通に話し掛けるのではなく、わざわざ相手の肩に手を置く仕草が2人の“心の距離”を表していた。
2人はともに初出場した昨年のオールスターゲームではホームラン競争の合間にツーショット写真を撮っている。リクエストしたのは5つ年下のゲレロの方。「その日が来るのをずっと待っていた」。26日の試合前に応じた会見では、自ら大谷にアプローチしてお願いしたような話しぶりだったが、実は、恥ずかしくて、自分で声を掛けられず、近くにいた旧知の記者に仲介してもらっている。
その写真は大きく引き伸ばし、ドミニカ共和国のバニにある豪邸の壁に飾っていることを明かしたゲレロは言う。
「オオタニのような選手と競う合うことは常に楽しいチャレンジだ」。
『チャレンジ』ではなく、『楽しいチャレンジ』。その言葉を聞いて思い返す。大谷からホームランを打ち、ダイヤモンドを回るゲレロは本当に楽しそうだった。
次に2人が顔を合わせるのは8月26日から28日にカナダ・トロントで行われる3連戦だ。その日が来るのを楽しみにしているのは記者だけではないはずだ。
(デイリースポーツ・小林信行)