【野球】カブス・鈴木のIL入りに思う ILがない日本球界では育成選手契約制度が形骸化していないか
カブス・鈴木誠也のIL(負傷者リスト)入りに思う。日本球界ではILは必要ないのか。日本独自の育成選手契約が形骸化する危険性を憂う。
鈴木誠也が5月26日のレッズ戦で左手薬指を突き指し、10日間の負傷者リスト入りしている。ILには10日間、15日間、60日間の3種類あり、選手をILに登録した場合、傘下のマイナーチームから代替選手を補充することが可能となる。10日間、15日間のILに登録された選手は、レギュラーシーズン開幕から8月31日までの公式戦およびポストシーズンに出場できる26人の選手登録枠から除外される。その他、さまざまな規定があるのだが、日本球界ではこのILは採用されていない。
だが、1992年から96年にかけて日本球界にもこの制度が設けられていた。当時は70人の支配下登録選手は、1軍40人、2軍30人に固定されていた。2軍に登録された選手は、1試合25人まで1軍の試合でベンチ入りできる出場選手登録は不可能だった。ただ、シーズン途中でも5人まで1軍、2軍の入れ替えは可能で、9月以降は70人の支配下登録選手なら1軍の試合に出場することは可能だった。また、全治2カ月以上の故障者は自動的に2軍選手として登録され、その代役として1人が1軍登録でできるという制度だった。
当時、私はプロ野球担当の記者として取材活動を行っていた。この開幕時点での1軍登録、2軍登録は選手にとっては死活問題で、当落線上にいた選手の喜びぶりや落胆ぶりを複雑な心境で取材したものである。
だが、97年に1軍40人、2軍30人という枠は撤廃され、70人の支配下登録選手の内、28人が出場選手登録され1軍の試合ごとに25人がベンチ入り可能となった。そのため、以降は負傷者リストのような制度は日本プロ野球界では登場していない。
その代わりに現在、各球団が利用しているのが、育成選手契約である。1チームの支配下登録選手の上限は70人と定められている。そのため、各球団は将来有望な選手を育成ドラフトで獲得し、戦力として育て上げようとする。かつて巨人で活躍し、NPB史上初の200ホールドを達成した山口鉄也や球界を代表する投手、ソフトバンクの千賀滉大や甲斐キャノンの甲斐拓也などは成功例だろう。
ところが、近年は長期の治療を余儀なくされた選手を自由契約とし、改めて育成選手として再契約する手法が多く用いられるようになった。ヒジの靱帯(じんたい)再建手術、いわゆるトミー・ジョン手術を受けたオリックスの黒木優太や19年の巨人ドラフト1位・堀田賢慎などがそうである。
確かに球団にとっては育成選手として再契約すれば、年俸を抑えられるメリットはある。だが、本来の趣旨とは異なると思う。故障からの復活を期す選手をサポートする新たな手段はないものだろうか。=敬称略=(デイリースポーツ・今野良彦)