【野球】深刻な審判への誹謗中傷 元プロ審判員が明かす現実「不眠症の人は相当いる」

2010年8月15日、阪神・金本の打球判定を話し合う審判団=京セラドーム
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 プロ野球の阪神・青柳晃洋投手が自身のSNSで誹謗中傷の被害を訴え、球団も注意喚起したことが話題となった。社会問題となっているその対象は、選手だけではない。プロスポーツの場に欠かすことのできない審判員の中にも、被害に悩みを抱える人が少なくないという。

 かつて、ある審判員を取材した際、微妙な判定や誤審をした時はヤジを受けるだけでなく、ファンに囲まれたり子どもがいじめにあったりした経験談を聞いた。今はネットでの中傷も深刻化しているという。

 「ネットは匿名だから傷つけることを平気で言うし、耐えがたいものがある。やってしまったとき、審判もその瞬間に99%分かっているんです。ジャッジのことを書かれるのはまだ我慢できる。でも人格まで否定され、憶測で間違った情報が共有されて、イメージをつけられる。自分だけならともかく、ネットは家族、子供、友人も見ることもありますから」。こう語るのは18年までNPB審判員を務めた坂井遼太郎さん。

 審判の仕事は極限の緊張感の中で円滑に試合を進めることができれば、終わった後は開放感で満たされる。だが、大観衆の前でひとつのミスをすれば、批判の的となる。それが勝敗に関わるジャッジであれば、大騒動へと発展する。

 「ネットの書き込みを気にしている方はかなりいます。不眠症の人は相当いると思います。睡眠薬を持っている人もいますから。普通の精神で4万人、5万人のなかでジャッジできない。やっぱり精神的に不安定になる人もいます」

 坂井さんは17年に球宴でもジャッジした一流の審判員だった。だが、その名前が注目されたのも、判定を巡る騒動だった。プロ4年目の若さで1軍に抜てきされたが、そのデビュー戦、京セラドームで阪神・金本の天井に直撃した打球をファウルと判定。当時のルールではインプレーだったことから試合が混乱し、後日、重い処分も受けた。以来、不眠や体重減、度重なる体調不良に苦しんだ。心筋症を患い、長期入院も経験した。

 さらにNPB審判員として最終シーズンとなった2018年、6月のオリックス-ソフトバンク戦。十回、ソフトバンク・中村晃の右翼ポール際への打球に対し、ファウル判定を下したが、リプレー検証の結果、ホームランに変更。だが、敗れたオリックスが試合後に再確認を要望し、その結果、やはりファウルだったとして大問題となった。

 この時、坂井さんの判定は正しかったことになるが、代表して謝罪をしたパ・リーグの仲野統括が同年に心筋梗塞で急逝。「仲野さんは悪くないのにたたかれていた。(訃報を聞き)仕事をやってられない。その時には気持ちが完全に切れてしまった」。仲野さんの死が騒動と結びついていたか定かでないものの、責任を感じた坂井さんは自分を責めた。

 グラウンドを離れた今も、元同僚の審判員とは交流がある。今年4月に起きたロッテ・佐々木朗と白井球審の騒動も違和感を持ちながら見ていたという。「白井さんは高圧的というイメージあると思うが、僕の中ではいじりがいのある大先輩。あれに関しては本人とも話したが、『反省する部分もある』と言っていた。かと言って、僕は100-0で白井さんが悪いとは思いません」。

 審判の待遇は決して恵まれたものではない。1軍のレギュラークラスになれば年俸1000万円とも言われるが、契約は1年ごと。日々、体力強化に努めながら技術向上の努力を重ねる。ファウルを受け、骨折しながら試合を裁くこともある。

 最近では判定に関するアナウンスも増えたが、審判はSNSも禁止され、自らの口で説明する機会というのはめったにない。今回、坂井さんは元審判員として「野球に何か恩返しがしたいと思っています。審判界のためになるのなら」と取材に応じてくれた。ひとりでも多く、その声が届くことを願う。(デイリースポーツ・佐藤啓)

 ◆坂井 遼太郎(さかい りょうたろう)1985年5月4日、大阪府出身。高校時代は金光大阪の野球部に在籍。卒業後、審判の勉強の為に渡米し、帰国後、2007年からセ・リーグの審判員となった。18年まで在籍12年間で1軍では350試合に出場。17年に球宴出場。現在は全国の大学野球を配信する会社「ULALA」を起業するなど、多方面で活躍。

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