【スポーツ】東京五輪から1年目総括 五輪銀・本多灯の止まらない成長とパリへの期待

 競泳のジャパン・オープンが4日に閉幕した。世界短水路選手権(13~18日、メルボルン)は控えるものの、国内主要大会は今年最後となった。24年パリ五輪の競泳初日(同年7月27日)まであと600日(5日現在)。昨夏の東京五輪から1年目のシーズンを総括する。

 今季最大の大会となった世界選手権(ブダペスト)。競泳陣は金0、銀2、銅2に終わった。同大会は福岡大会が23年7月に延期されたことで、急きょ開催が決定。調整の難しさはあったと思われるが、それでも金メダルなしは今までの競泳陣の活躍からすれば寂しい数字となった。

 五輪2大会連続平泳ぎ2冠の北島康介氏の活躍で火が付いた「五輪で競泳はメダルラッシュに沸く」というイメージ。これまで16年リオデジャネイロ大会400メートル個人メドレー金の萩野公介氏、21年東京大会同2冠の大橋悠依(イトマン東進)と記録を残してきた。五輪メダル0となれば1996年アトランタ大会以来8大会ぶりの事態。また23年は世界選手権が福岡で開催される。競泳日本代表はこれから2年連続で正念場を迎えることになる。

 記者が注目するのは東京五輪200メートルバタフライ銀メダルの本多灯(20)=日大=だ。自国開催の五輪を終えてモチベーション維持に苦しむ選手が多い中、今季は右肩上がりで成長し続け、結果を残す姿が目立った。6月の世界選手権では同種目で銅メダルを獲得。10月の日本短水路選手権では世界新記録をたたき出した。さらにジャパン・オープンでは自身の五輪銀メダルタイムを上回る自己ベストで優勝した。

 他の選手と明らかに違うところはポジティブで強気な発言。本人は「実はネガティブなところも全然あります」と謙遜するが、それでも試合はいつも前向きに挑んでいる。今年4月の日本選手権。他の代表選手が世界選手権に向けて「強化期間の中でどれだけタイムが出るか」と位置づけた大会だったが、本多だけは「僕は常にベストを狙っているので」と力強く宣言していた。

 また選考がかかっていない地方の小さな大会であっても、本多は常に自己記録更新を狙う。彼の辞書に試合に向けた“調整”という言葉はないのか…。そう思うほどの貪欲さが東京五輪から止まることなく成長を続けている要因の一つなのかも知れない。

 パリ五輪の金メダルへ。懸念点があるとすれば同種目に圧倒的な強さを誇るクリストフ・ミラク(ハンガリー)が君臨すること。本多の自己ベストは1分52秒70。リオデジャネイロ五輪金メダルマイケル・フェルプス(米国)のタイムはすでに超えている。しかし、ミラクは本多より2秒以上も上回る1分50秒34の世界記録を持つ。

 本多が24年まで順調に伸びたとしても、厳しい戦いになることは間違いない。ただ勝負の世界に絶対はない。本多も諦めている様子は一切なく「五輪金メダルが目標で夢。ミラクに追い付いて、パリでは圧倒的なレースで勝ちたい」。北島氏、萩野氏を育てた平井伯昌コーチも「記録が止まることなく伸び続けているところが、常に(世界の)金メダルを忘れちゃいけないよというのを(本多)灯に教わっている気がします」と競技に対する姿勢を評価していた。

 本多は世界短水路選手権の代表入りは辞退し、冬場の強化に専念する。今季当初から「僕がエースです」と宣言していた20歳。競泳の大会決勝ではタイムの速い選手から中央のレーンで泳ぐことになっている。つまり大外が一番遅い選手、中央で速い選手が泳ぐ。福岡の世界選手権、そして夢舞台へ。東京五輪では大外8レーンからまくった“ダークホース”が、24年には日本の“エース”として、ど真ん中から世界一を奪い取る姿を期待したい。(デイリースポーツ・谷凌弥)

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