【野球】球団の垣根を越えた合同自主トレの是非 名球会OBが現代野球のオフを語る
年が明け、プロ野球選手の自主トレ便りが日本各地はもとより、海外からも届いてくる。失地回復のために新年を迎えて心機一転を図る者、昨年の取り組みが功を奏し、今年も継続を試みる者など、その姿は多種多様だ。
かつては各球団の選手会が、ある種の“強制力”を持って参加を呼びかけ、一方で練習場所や練習相手を確保できない選手のため、1月中旬から各球団で合同自主トレが開催されていた。
だが、最近のトレンドとしては、球団の垣根を越えた集まり、高校、大学、社会人の先輩後輩をはじめ、チームメートを介しての紹介、知人を伝っての弟子入りなど。今ではこんなスタイルが主流になりつつあるように感じる。
昨年1月には阪神・藤浪が「ぜひお願いできたら」と巨人・菅野に合同自主トレを依頼し、沖縄・宮古島で一緒に汗を流した。藤浪からの申し出に対して菅野は「彼が僕に頭を下げてくれたということに意味がある」と受け止めて快諾。「苦しんでいるのは明らかだった。懸念されているところはコントロール。メンタル、技術と両方あると思うんですけど、僕は何とかなるなと思っていました」と手を差し伸べた。
宿敵と称される巨人と阪神の選手が、救いを求める選手に壁を破るための助言を送り、成長、進化の一助となる。プロ野球をより高いレベルに引き上げ、お互いも一段上のステージでパフォーマンスを繰り広げ合うという意味では、非常に有意義な時間と空間になるはずだが、プロ野球OBはどんな思いで、昨今の自主トレ事情を見ているのだろうか。
元阪神監督で、現役通算2064安打で名球会入りを果たしている藤田平氏(75)は「違う球団の選手と一緒に自主トレするなんてのは、我々の時代には考えられないこと。自主トレってのは文字通り、練習メニューから時間配分まで、自分ひとりで考えてやるのが当たり前だと思ってたからね」と現代の風潮を受け入れがたい気持ちを表した。
「自分の頭で考えて体を動かして、数多くのミスを重ねる中で成功に近づいていく。これが本当の力と言えるもの」としつつ、「今の子たちは、昔から教えられることに慣れているから、道を極めた人に成功の秘訣、近道を聞くというやり方は、時間的な無駄を省くという意味では、賢いやり方かもしれない」とうなずく。
1980年度ドラフトで阪神から1位指名され、現役通算33勝23敗14セーブの中田良弘氏(63)は「時代の流れなんだろうね。しかしながら、他球団の選手がだよ、ライバル球団の選手がうまくなろうとするのをよく手助けするなあと思うよ。普通、優勝を争う相手がうまくなったら困るって考えるじゃん。昔は試合前練習の時でも他球団の選手とは会話するなと言われたもんだけど、時代かな」と話した。
一方で「仮にライバル球団の選手に教えられてうまくなった時、コーチの存在、立場を考えると、野球協約で指導が禁止されている期間ではあるけれど、複雑な気持ちになるなあ」との思いを寄せた。
また、阪神、広島などでコーチを歴任した岡義朗氏(69)は「今と昔の最大の違いは情報量。今は情報社会だから、球団に関わらず、いろんな選手と自主トレを共にすることは選手の立場からするといいことだと思う。学ぶべきものもたくさんあると思うし」と選手目線としては賛成の意を示した。
ただ、チームを預かるコーチ目線に立つと、意見は少し変わってくる。「寝食を共にして、いろんな言葉を交わす中で少なからず、サインや人間関係を含めた自チームの情報が漏れてしまう可能性が高まることは否定できない。加えて、特に投手と野手の場合などは、実際に対戦する際にやりにくさが生まれてしまわないか。勝負師としての勘が鈍ってしまうのでは、ということまで考えてしまうよね」と結んだ。
選手目線ではメリットが目立つが、首脳陣からすると、デメリットも併せ持つという側面がある。後者の心配を杞憂で終わらせるためには、誰が見ても熱く、激しい、ハイレベルな一投一打で球場を沸かすことが、説得力を持たせることにつながる。(デイリースポーツ・鈴木健一)