【野球】リーグ3連覇のカギはなに?高津ヤクルトと中嶋オリックスが乗り越えるべきハードルは
机上に並ぶ数字を追えば、実に似通ったチームである。
屈辱の最下位から始まったヤクルト・高津監督の指揮官人生。だが、翌年の2021年に6年ぶりのリーグ制覇を飾って日本一まで上り詰め、昨年は球団29年ぶり2度目のリーグ連覇を飾った。
オリックス・中嶋監督は2軍監督だった2020年途中、西村監督の途中休養で8月下旬から1軍監督代行を務めた。最下位に終わったチームを引き受ける形で翌年から監督に就任すると、いきなり25年ぶりのリーグ優勝。記憶に新しい昨年は、シーズン最終戦での大逆転優勝で球団26年ぶりのリーグ連覇を成し遂げ、26年ぶりの日本一にも輝いた。
ともにリーグ3連覇を狙う2023年。ヤクルトが3連覇となれば球団史上初。オリックスは1975年から78年まで上田利治監督が4連覇を果たした時以来、3度目となる3連覇に挑む。
両チームの今季戦力図を昨年と比較してみる。
ヤクルトは昨年まで守護神を務めたマクガフが抜けた。ドラフト1位で即戦力右腕の吉村(東芝)を指名したが、2年連続30セーブを挙げたストッパーの穴は埋め切れていない。それでも伊藤投手コーチは「行き当たりばったりでもいい。固定できればベストかもしれないけど、日替わりでも当番制でもいい」とのスタンスを示している。
有力候補は過去に守護神を務めたことがある石山、一昨年の最優秀中継ぎ投手である清水、昨年12月に獲得した前ドジャース傘下3Aの最速159キロ右腕・ケラと思われる。強いと称されるチームは勝ちパターンが確立されているのと同時に、勝っている展開をゲームセットまで高い確率で維持する“救援陣の強さ”があるだけに、手当ては必須かつ重要だ。
阪神、オリックスなどでコーチを務めた岡義朗氏は「打線に関しては村上という絶対的な軸ができた。オスナ、サンタナの両外国人が村上の後を打ち、勝負強い打撃で得点を稼ぐなどして役割を果たし、打線として機能していた。今年もその形は維持できるんじゃないか」と攻撃陣に不安点はないと感じている。
3連覇のカギに挙げたのは投手陣。「高津監督を筆頭にした投手起用のベンチワークは昨年も素晴らしかった。ただ、先発陣に圧倒的な力があると言えないだけに、昨年以上に中継ぎ陣に負担がかかる可能性があることは否定できない。先発投手の整備、守護神を誰にするか。大きなテーマになってくるはずだよ」と、打高投低の縮図をいかに解消することができるかが重要なウエートを占めると位置づけた。
オリックスは今オフ、日本一奪回の立役者となった打線の核、吉田正がポスティングシステムを利用して米大リーグ・レッドソックスに移籍した。昨年は打率・335、21本塁打、88打点。リーグトップの出塁率・447をマークした138安打、89四死球の穴埋め作業は容易ではない。加えて、捕手陣で一番多い66試合でスタメンマスクをかぶった伏見も、国内FA権を行使して日本ハムに移籍した。
打の軸と扇の要を失ったオリックスだが、複数球団による争奪戦を制して、西武から国内FA権を行使した森の獲得に成功した。昨年は右手骨折の影響などで打率・251、8本塁打、38打点と直近5年間でワーストの数字に終わったが、2019年には打率・329、23本塁打、105打点をマークしてリーグ連覇の礎となった実力者だ。
岡氏は「吉田正が抜けたところに森が入ってくるけど、森は4番というタイプじゃないし、調子の波が荒いところがある。安定感、確実性という点で吉田正の方が上だし、FA移籍初年度ということで必要以上に意気込んで空回りしてしまったバッターを数多く見てきた。森の加入だけで吉田正の穴は埋められないと思う。3連覇するためには、打線が束になって吉田正の穴をカバーすることが重要になってくると思う」と指摘した。
一方、投手陣は盤石に近いと見ている。「中嶋監督の投手起用は昨年の日本シリーズでもお見事だった。選手に感覚的な慣れを生ませない起用法であったり、一方でモチベーションを落とさない采配も素晴らしかった。先発、救援陣ともにいいスタッフがそろってる。3連覇のカギは打線の奮起しかないね」とヤクルトとは逆で、投高打低の構図を覆すことができるかを重要ポイントに挙げた。
1968年度生まれの同い年の指揮官が挑むリーグ3連覇。高い壁を乗り越えれば、高津監督は球団史上初、中嶋監督は西本幸雄氏、上田利治氏以来、球団3人目の偉業となる。球界関係者の間では、すでに名将の域に足を踏み入れたと評価されている両者が織り成す143試合の長丁場。秋の色づきを待つ。(デイリースポーツ・鈴木健一)