【スポーツ】F1の夢追い「トップレーサーになりたい」 母の祖国・日本参戦を目指す18歳スイス人ドライバー
爆音の中で最高時速200キロ台中盤に及ぶフォーミュラカーを操るのは、まだあどけなさの残る少年だ。スイス人の父と日本人の母との間に生まれたミハエル・サウター(18)は、自動車レース「フォーミュラ4(F4)」で活躍し、現在は日本でF3カテゴリーに当たる「フォーミュラ・リージョナル・ジャパン(FRJ)」へのステップアップを目指している。
「自分のルーツがある日本でレースにチャレンジしたい」と、兵庫県出身の母・美由紀さんの祖国である日本でのレース参戦を見据える。「スピードを出すこと、ライバルを抜き去ることがすごくエキサイティングなんだ」。瞳を輝かせながらレースの魅力を語る高校生ドライバーにとって、幼少期に家族旅行で来日し訪れた鈴鹿サーキットや富士スピードウェイの光景は忘れることができない。「鈴鹿はカーブの難易度が高いが、スピードを出せそうな素晴らしいサーキット」。自らが駆けるイメージに胸を高ぶらせる。
スイスのゲンペンという地方都市に生まれたミハエル。自動車整備・加工業を営んでいた曽祖父のコートさんが1950年代にレーシングチームを作り、自ら制作したレーシングカーで欧州を転戦した自動車一家に育った。7歳でレーシングカートを始めると、曽祖父から受け継いだDNAが開花。2017年からスイス代表としてカートの世界大会決勝に毎年出場した。21年からステージを上げ、ドイツ自動車連盟(ADAC)F4に参戦。ここでも頭角を現し、シーズン最終戦ドイツ・ニュルブルクリンクで新人ランキング2位となり、表彰台に立った。
その実力が認められ、今シーズンはFRJから優秀な外国人ドライバー枠での参戦を誘われている。しかしネックとなるのがエントリー料金の実費負担。現在のところ資金集めに苦戦している。欧州でのレース経験しかないため知名度が乏しく、日本のスポンサー集めはゼロからのスタートだからだ。
チームの規模も他のレーサーよりずっと小さい。自動車メーカーなどのチームや育成プログラムに所属する例がほとんどだが、ミハエルはフリーの立場。父・ステファンさんがエンジニアを務め、美由紀さんと姉・カリンさんが実務をこなすなど家族で転戦している。レース会場まで父が運転するけん引車でマシンを運び、整備も父子で行う。部品調達を自分たちで行うため、クラッシュなどで破損した場合はレース続行が不可能に。スペアカーもなく、大クラッシュを起こせば1年のレースを棒に振るリスクもある。
「クラッシュしたらリタイアになるので、それが怖い」と話しながらも、ミハエルは強気のレースを貫き、実績を重ねた。美由紀さんによると「ライン(道筋)を読む才能にたけている」と天性のレース勘を持っており、得意なレースは「雨天のレース」(ミハエル)。ライバルたちが慎重になりがちな滑りやすいコースを、隙を突いて走り抜けるのだという。
目指すのはもちろんF1。「プロでトップレーサーになりたい」と希望が膨らむ。しかし目標とするドライバーは「いない」という。「目標を作ると、その人のまねになってしまう。自分のレーススタイルを貫きたいんです」と意思の強さを感じさせる。FRJに参戦できれば、F1ドライバーになるために必要なFIA(国際自動車連盟)のポイント獲得につながり、夢に近づくことができる。また、プロチーム加入やスカラーシップ(育成)枠での参戦など、可能性も広がる。
普段は学業と父の経営する自動車整備・加工業の見習いをしながら、レースの準備やトレーニングとの両立をこなす。日本のスポンサー獲得は現在、返事待ちの状況だが、自ら取り組んでいるのはクラウドファンディング。インスタグラムアカウント(@_michael_sauter_)からアクセスできる(英語、イタリア語、フランス語のみ)。スイスから日本、そして最高峰のF1へ羽ばたく日を夢見ている。(デイリースポーツ・中野裕美子)