【野球】宜野座から消えたファンの“タメ息” 岡田監督の改革着々「細かいことの積み重ねよ」 イズムを虎に注入

 阪神の宜野座キャンプを見ていて、“あること”が減ったなと思った。それは守備練習時にわき起こるファンの「ため息」だ。今年、コロナ禍後では初となる観客収容人数制限を撤廃して迎えた2月。スタンドには大勢のファンが詰めかける光景が戻ってきた。

 初日から7日の第2クールまでを見ていると、スタンドからほぼ、ため息が漏れることがなかった。2009年から21年まで宜野座キャンプを取材してきたが、シートノック、投内連係など守備練習でミスが起こると、ファンの「ハァ~」「あ~っ」という声がスタンドに充満する。

 しかし今年はそれがない。強いて言えば7日に行われたシート打撃で、中野がイレギュラーバウンドをファンブルした際にわずかに起こった程度だ。映像越しに見る限りでは、グラウンドから程よい緊張感が伝わってくる。シートノックの終盤に行われる内野のボール回しもほぼミスがない。例え送球がそれたとしても、受け手がしっかりカバーしている。

 極め付きだったのは7日のシート打撃で魅せた中継プレーだ。走者一塁から佐藤輝が鋭く三塁線を破った。左翼ファウルグラウンドに転がるボールをノイジーが素早く処理すると、遊撃の木浪へストライク送球。木浪もすぐさまワンバウンドのストライク返球で、ホームを狙った走者をタッチアウトにした。

 スカイAの「猛虎キャンプリポート」で解説を務めていた糸井嘉男氏も思わず「すばらしい」とうなった中継プレー。ここ10年来の課題だった守備力改善へ光が差したようなワンシーンだったと思う。しかし岡田監督が目を向けたのは「サードランナー止めたやんか、それから走ってるやんか」。三塁コーチの判断ミスを厳しく指摘したところに、デイリースポーツ評論家時代に何度も聞かされた「細かいことの積み重ねよ」という“格言”が思い起こされる。

 それは裏を返せば「勝つために何をすればいいか」-。キャンプの守備練習中、ミスが起こったとしても、原因を追求することなく、次のプレーへと移っていた。この現状にスタンドからどこか悔しさをにじませていたのが評論家時代の岡田監督だった。

 「守備に関しては選手個人がどうこうという問題ではないんよ。チームとして意識を変えんと絶対に改善は望めない」と指摘した上で「守備に関しては地道な反復練習がモノを言うからな。投内連係やゲームを見ていると、ミスが起きても、そのまま流れて次のプレーに移っていくやろ?紅白戦とかはピッチャーの関係があるから、ゲームを止めるのは難しいかもしれんけど、通常練習であればいったんストップして、何が原因でこうなったのか、どうすべきだったのか確認できるやん。一つ一つを確認しながら、同じミスが出ないように意識付けを徹底していくことが必要やと思うよ」と分析していた。

 阪神&オリックスを率い、監督としての勝率・529、貯金「65」という数字が示すように、長いペナントレースを戦う上で投手力を含めた守備へのこだわりは強い。「守りは地道な反復練習を繰り返すことで向上していくんよ。ペナントレースを戦う上で、守備率・990前後の確率を求められるし、優勝するチームはそのレベルで推移してるんよな。一方で打撃は3割やろ。7度の失敗が許されるバッティングを追い求めるか、それとも高い確率で失点を防ぎにいくか。甲子園を本拠地とする以上、守備のミスはシーズン成績に大きく響くんよ」。今、外野手が必ずカットマンへ強い送球を繰り返しているのも、走者二塁の場面から外野手の無理なスローイング、中継プレーの乱れから生還させるだけでなく、打者走者もスコアリングポジションへ進めてしまう。そして流れを決める“次の1点”を奪われる。そんな場面を何度も目の当たりにしてきたからこその対策だろう。

 評論家を務めていた2月、自宅のテレビは常にキャンプ中継が流れていた。ここ数年、プロ野球のキャンプは2月上旬から実戦を取り入れていたが「ここ10年で最も多く日本一になっているソフトバンクが、中旬まで実戦をやらんのは何でやと思う?それだけチームとして確認すること、反復練習をしっかりやってるんよ。それが強さの秘けつちゃうかな」。その考えは今年の阪神キャンプからも見て取れる。

 紅白戦を第3クールの10日以降に設定し、十分な練習期間を設けさせようとした。7日に行われたシート打撃に「本当はやるつもりはなかった」と明かしたのも、徹底した反復練習でチームの意識を変えるのが狙いだったのだろう。

 さらに監督としての性か、ワンプレーに一喜一憂するのではなく、目が向くのは改善点。ノイジー&木浪の中継プレーは確かに素晴らしかったが、一方でベースコーチの判断は?ランナーのベースランニングはどうだったか?そういう細やかな指揮官の観察眼&視点が、ペナントレースで奪いたい1点、さらに防ぎたい1点へとつながる。また外国人選手と対戦する投手のチョイス、打たれた選手へのフォローなど、プレーヤーへの気配りも欠かさない。

 日々、チームに注入されている岡田イズム。ここ数年、「戦力はありながら勝てなかった」と嘆くファンも多かった。キャンプが始まってちょうど1週間、細かいことを積み重ねていくことで-。虎が変わる兆しは間違いなく見えている。(デイリースポーツ・重松健三)

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