【野球】ファンの夢を奪う転売ヤーの実態 WBCチケットも高額取引の対象に 防衛手段はあるのか

 WBCに出場する野球日本代表を管轄するNPBエンタープライズが2月28日、3月3、4日にバンテリンドームで開催される「侍ジャパン対中日」の壮行試合のチケットが2試合とも完売したと発表した。アナウンス直後にネットを検索してみると、定価より高い値段でこの2試合のチケットが取引されており、3月9日に初戦を迎える侍ジャパンのWBCチケットも定価を上回る価格で高額取引されていた。

 NPBの試合観戦契約約款には、第4条に(転売等の禁止)という条項があり、「何人も第三者に対し、主催者の許可を得ることなく、入場券を転売(インターネットオークションを通じての転売を含む)その他の方法で取得させてはならない。但し、家族、友人、取引先、その他これらに類する特定の関係に基づき、営利を目的とせず、かつ、業として行われない場合については、この限りでない」と、営利目的での転売禁止を明文化している。

 また、文化庁のホームページには、チケット不正転売禁止法について詳しく書かれたページがある。そこには「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(略称チケット不正転売禁止法)が平成30年12月14日に平成30年法律第103号として公布され、令和元年6月14日から施行されましたとあり、本法律は特定興行入場券の不正転売を禁止するとともに、その防止等に関する措置等を定めることにより、興行入場券の適正な流通を確保し、もって興行の振興を通じた文化及びスポーツの振興並びに国民の消費生活の安定に寄与するとともに、心豊かな国民生活の実現に資することを目的としていますと記されている。

 ただ、愛知県に住む50歳代の男性はチケット購入の抽選に外れ、先着発売でも入手できず、定価より高い価格で出品されている“プラチナチケット”の存在に「本当に応援したいファンがチケットを手に入れられない状況。これ、なんとかならないものですかね」と深いため息をついていた。

 希望するチケットを入手できない理由のひとつに「転売ヤー」「転売屋」と呼ばれる業者や個人の存在がある。彼らは希少価値があると判断したチケットを転売目的で大量購入し、オークションサイトなどで高額販売する。アルバイトを雇ってチケットを入手することもあり、一般ファンにしてみれば、チケット入手の倍率が上がり、競争相手も増える“天敵”となっている。

 果たして防衛手段はあるのだろうか。

 プロ野球の巨人と親会社である読売新聞社は、これまでもチケット不正転売に関して警察の捜査に協力すると同時に、悪質な不正転売に関しては警察への通報、チケットの販売拒否、入場禁止などの措置を講じてきた。

 ジャニーズ事務所公式サイト「Johnny’s net」では、「チケットを不正に転売してはならない」「不正転売のためにチケットを購入してはならない」と呼びかけると同時に、チケットの転売状況を常時監視し、転売チケットの当選者が判明した場合にはチケットを無効(入場不可)とし、既に入場していた場合には退場して頂きますと、断固たる姿勢で転売撲滅に努めている。

 Jリーグのセレッソ大阪では、昨年のガンバ大阪との大阪ダービーなど、観客動員が見込めるカードを独自に判断し、購入者情報が把握できるネットでのみ販売する手法を導入し、コンビニエンスストアでは販売しない措置を取っている。セレッソ大阪広報部は「チケットに異変があった際のアクションは、これまで目立った対応は取っていないものの、発見した場合は厳正に対処する予定」としている。過去には職員がネット販売での異変を発見して落札し、出品者に連絡を取って注意喚起したことがあるという。

 またヴィッセル神戸では、運営するIT企業の楽天グループがチケット販売を手がけており、2019年からは購入者情報を把握できる楽天会員でないとチケットが購入できないシステムになっている。加えてチケットのIDと席番号が紐付いていることで不正転売の抑制にもなっている部分もある。

 ちなみにチケット不正転売禁止法に違反した場合の罰則は、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはその両方が科されることになっている。

 サイン色紙などの転売、オークションサイトに出品する行為も後を絶たない。

 プロ野球の巨人、米大リーグ・レッドソックスで活躍した上原浩治氏は2月6日に自身のツイッターに「そっかぁ 高橋由伸との連名サインボールがメルカリに…こういうのは本当に無くならないよね 誰に送ってるとか、こちら側で分かるのになぁ。転売しません…みたいな誓約書を書いてもらうとか?そこまでする必要はないけど…俺はいいけど、由伸に失礼やわ」とつぶやいた。

 また、中日の龍空内野手も2月28日にインスタグラムのストーリーズで、自身のサイン入りユニホームに66件の入札があり、1万3510円の値がついたオークションサイトの画像を載せ、「時間を割いて書いてるのに 悲しいですよね 書かなければよかった」と一部ファンの“裏切り行為”に対する悲痛な思いをつづった。

 米大リーグ関係者によると、メジャーではサインの転売行為に対する球団としての対策は打ち出していないとの回答だったが、サインする側の選手が、必要以上に何度もサインをもらいに来る人の顔を覚えていたり、指紋が付かないように不自然にボールケースにしまう人などは転売目的ではないかと推察し、サインを控えるケースが増えてきたという。

 これは日本でも同様で、手の込んだ“悪質犯”になると、自分の子どもにサインをもらわせ、転売にかけるケースが多いのだという。匿名を条件に取材に応じた某有名選手によると、「何度ももらいに来てて、自分のサインが転売されてるのも聞いてるから、サインを断ろうとしたら、『こんな小さい子どものお願いも聞けないのか!』ってキレられたりすることもあって。僕たちは本当に自分のサインが欲しい人に書いてあげたいだけ。これを営利目的で転売するなんて、もうサインが書けなくなりますし、今後はやめてほしいですね」と呼びかけた。

 ファンあってこそのエンターテインメント。転売されるということは、人気を裏付けるバロメーターになるのだが、こういった形で人気がクローズアップされるのは選手としても本意ではない。長年続く『いたちごっこ』ではあるが、どこかのタイミングで終止符が打たれることを願うばかりだ。(デイリースポーツ・鈴木健一)

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