【野球】なぜ侍Jは中国に苦戦したのか 初戦白星発進も途中までは大接戦 大谷も難しさを感じた初戦

 イニング間に穏やかではない空気が何度も流れた。相手投手の制球難に助けられた8四球などで幾度となく塁上をにぎわせながら、3回を終わってわずか1得点の7残塁。WBC出場国の中で最下位となる世界ランキング30位の中国相手に、3大会ぶりの世界一奪還を狙う侍ジャパンがよもやの大苦戦を強いられた。

 先頭・ヌートバーの初球安打と連続四球の無死満塁から、村上がストレートの押し出し四球を選んで先制。東京ドームのスタンドは大いに沸いたが、吉田が遊飛。続く岡本和の浅い右飛で三走・近藤が果敢に本塁を狙ったが、タッチアウトでダブルプレー。最低限の1点に終わってしまった。

 二回には1死から源田が二塁内野安打で出塁したが、左腕・王翔のけん制につかまってタッチアウト。その後、3四球で満塁としたが、この絶好機で大谷がフルカウントから、見送ればボールという外角低めの球に手を出して遊ゴロ。世界の二刀流に対する期待が大きすぎるあまり、失望のため息もとてつもなく大きく聞こえた。

 三回も2死からの連続四球で一、二塁としたが、源田が初球を捉え損ねて投ゴロ。3イニング連続の逸機。一塁側ベンチの栗山監督は首をひねり、その表情は回を追うごとに渋さを増していった。

 1985年に阪神の主戦投手として12勝を挙げ、リーグ優勝に貢献したプロ野球解説者の中田良弘氏は「打ち損じや普段では考えられない走塁ミスっていうのも、国際大会の初戦ならではっていうところじゃないのかな」と、独特の空気や緊張感が選手に硬さを生んだ可能性があると指摘した。

 ただ、この重苦しい空気を打ち破ったのは大谷。投げては最速160キロの直球とスライダーを軸に、4回1安打5奪三振の無失点。4回で球数も49と少なかった上に、決め球のスプリットは1球しか投げず、昨季から武器としているツーシームも2球しか見せなかった。有力視される16日の準々決勝先発を見据えれば、今更ながらではあるが、最新版の手の内を隠すことに成功した。

 打っては二回の満塁機こそボール球に手を出して遊ゴロに倒れたが、四回1死一、三塁の第3打席では、前打席で打ち取られた落ちる球を完璧に捉えて、左翼フェンス上部を直撃する2点二塁打。八回にも、マルチ安打となる右前打を放った。

 中田氏は大谷の投球内容ついて「スライダーが投球の過半数を占めた。見てる人はもっと速い球を見たかったかもしれないけど、向こう(米国)でも1試合しか投げてないしね。次の登板に向けたいい試運転になったと思う。まだまだ上がってくる余地は大きい」と語り、打者としては「この前の阪神戦もそうだけど、真っすぐにまだ合ってない。変化球はいい感じで捉えてるんだけど。ただ、ランナーがいる場面で何度も打席が巡ってくる。やっぱり持ってる男だなと思ったよ」と解説した。

 終わってみれば8-1での勝利となったが、六回に2番手の戸郷がソロを被弾し、七回には1死一、二塁と、一発逆転のピンチを招くシーンもあった。序盤から突き放しての大勝を想定していたファンが多い中、17四死球を得ながら、16残塁の拙攻だった。

 大谷は試合後のヒーローインタビューで「序盤は重たい試合でした。中盤までは(どっちに転ぶか)分からなかったゲームだったので、勝てて良かったです」と振り返り、栗山監督も「国際大会は思ったようにいかないのを見てきたが、本当に難しい試合だった。勝ち切れて良かった」と安どした。『勝てば官軍、負ければ賊軍』ということわざがある。中田氏も「課題が出たのが初戦で良かったと思う。勝って反省できるのは救い」と位置づけた。

 10日の第2戦はプールBで最大のライバルと目される韓国が相手。しかも韓国は9日の豪州との初戦を7-8で落とし、準々決勝進出に向けてもう負けられないだけに、目の色を変えて向かってくるだろう。第2回大会決勝では、イチローの決勝打で眼下に従えたが、その道中では苦汁を飲まされたこともある因縁の相手だ。

 国際大会初戦には独特の緊張感と重圧があり、本来の力が発揮しづらいと言われることが多いが、2戦目となれば地に足を着けた野球ができるはず。チーム最年長のダルビッシュが先発マウンドに立つ大一番。初戦中盤までのスタンドに渦巻いた消化不良の空気を、一気に消し去ることができるだろうか。(デイリースポーツ・鈴木健一)

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