【競馬】パンサラッサを支える心優しきベテラン・池田康宏厩務員“約束”を果たしたドバイで再び最高の輝きを
再び世界の強豪撃破なるか-。世界最高の1着賞金約13億円のサウジCで、並み居る猛者相手に逃げ切りを決めたパンサラッサ。そんな令和きっての個性派を担当するのが、矢作厩舎の池田康宏厩務員(64)だ。今年7月の誕生日で65歳の定年を迎えるベテランホースマンが、相棒とともに25日のドバイワールドCで海外G1連勝の快挙を目指す。
矢作厩舎を開業時から支えてきた生え抜きのスタッフだ。指揮官も「やっちゃん」と呼び、手腕、人間性に信頼を寄せている。その人柄を肌で感じた出来事があった。2018年の中山大障害。当時担当していたタイセイドリームが、ニホンピロバロンの鼻差2着に敗れた一戦だ。
バロンを担当していたのが、池田厩務員とは50年以上の付き合いになる幼なじみの田所厩舎(現・松下厩舎)の谷中康範厩務員。レース翌週、池田さんとトレセンで顔を合わすと、「スクーリング(コースの下見)で早めに中山入りしたんやけど、連日、谷中と飯行って。で、ゴールも2頭で一緒やったやろ?どんだけ仲いいねんってツッコまれたわ」と笑わせてくれた。
40数年の厩務員生活で、まだG1勝利を手にしたことがない頃だった。当然、悔しさもあったはずだが、ユニークな話で場を和ませてくれるのが池田さんらしい。後日、谷中さん主催の勝ち祝いに同席させてもらった際、「そりゃ、あそこまで行ったら勝ちたかったけど、谷中やから許すっていうか“おめでとう”って思えたわ。今度は俺がG1勝つで。勝ち祝いするから楽しみにしとってや」と目を輝かせていた姿は忘れられない。誰からも好かれる理由が、改めて分かった気がした。
数年後、その“約束”はドバイの地で果たされた。昨年のドバイターフでパンサラッサがG1初制覇を達成。池田さんから届いた「これでようやく谷中に肩を並べることができました」というメッセージには、思わず胸が熱くなった。当時、ロードノースとの同着Vで見ることができなかったG1の口取り写真。サウジC制覇後、映像を通じてだが、馬の顔を抱き寄せ、キスし、カメラに納まる瞬間を目にできた。お世話になっている私にとっては、感動的で、最高に幸せな景色だった。
そんな池田さんは、サウジでも人気者になっていたそうだ。レース後、「涙腺が崩壊」し、号泣する姿が有名になり、「すっかり泣きキャラになってしまいました。現地のスタッフからもまねされて」と教えてくれた。言葉の壁や人種の違いも不問。血の通った熱さ、優しさを感じるから、どこに行っても愛される。ホースマンとしてのキャリアのエピローグが、誰にも書けないような劇的なものになっているのは、池田さんの人間性が大きく影響しているように思えてならない。
「脚元も異常ないし、元気です。食欲も落ちていません。ドバイに移ってからも体調に変化はなく、顔つきには精悍(せいかん)さが戻っていますよ」
パンサラッサの現地での様子をそう伝えてくれた。決戦はいよいよ今夜未明。昨年、人馬ともにG1初制覇を飾ったメイダン競馬場から、2年連続で吉報が届くのを楽しみにしている。(デイリースポーツ・大西修平)