【野球】「MVP大谷決定」に安ど 岡本和落選に絶句 激動のWBC投票舞台裏 デイリースポーツ記者が投じた重き1票

 心臓が高鳴った。

 WBC準決勝、日本代表対メキシコ代表が始まる前のこと。MLB広報部から一通のメールが届いた。

 件名「Vote for 2023 World Baseball Classic MVP and All-Tournament Team」(2023年WBCのMVPと大会ベストナインの投票について)

 投票用紙と大会出場国・地域全選手の大会成績のPDFが貼付されていた。

 馴染みの広報部員に確認して知った。過去の取材実績などを考慮した上で無作為に記者が選ばれたこと、投票の締め切りは決勝戦の六回終了時、投票者は報道陣11人と記録員6人。決勝戦当日の報道陣の数はおよそ2000人。ランダムで選ばれたとはいえ、大変な名誉であり、責任重大である。

 全米野球記者協会の会員にさせてもらって20年。これまで米野球殿堂、サイ・ヤング賞、新人王などに票を投じた経験はあるが、WBCは5大会の取材で初だ。

 決勝当日は取材と並行しながらの選出。公平に。慎重に。肩入れしていると思われないよう、母国の選手は他国の選手よりも厳しく作業を進めていった。

 日本代表対アメリカ代表の一戦は1点を争う展開となった。先制したのはアメリカ。二回にターナーの大会最多5本目の本塁打で1点を先制するも、日本がその裏に村上のソロとヌートバーの進塁打で逆転に成功。四回には岡本和にも一発が飛び出し、六回終了時点で日本が2点をリードした。

 MVPは優勝国からと決めていた記者は投票用紙に条件を付けて3人の名前を書き込んだ。

「吉田正尚(日本)※日本が優勝した場合」

 大会記録を塗り替える13打点。準決勝のメキシコ戦では起死回生の同点スリーランを放っている。数字が勝負強さを如実に物語る。吉田のバットなしには決勝進出はありえなかった。

「トレイ・ターナー(アメリカ)※アメリカが優勝した場合」

 大会序盤の不振から打順は9番降格。スタメン落ちしたメキシコ戦でチームは大敗を喫した直後に本領を発揮する。5本塁打は大会最多。アメリカ強力打線の象徴となった。

 3人目は大谷翔平だ。条件は「抑えで登板して日本が優勝した場合」。ここまで先発で2勝し、打っては東京ドーム看板直撃弾を放ち、投票時には4割近い打率を残していた。守護神としてセーブを挙げれば、文句なしの選出だ。

 ほっとした。試合後のセレモニー。本塁付近でマンフレッド・コミッショナーからMVPのプレートを授与される大谷を見て、喜びよりも安どの気持ちの方が大きかった。

 後に知ったことがある。投票締切は六回終了時が原則だが、試合展開によって変更可だったという。投票の内訳は非公開のため、記者を除く16人のうち何人が、どのタイミングで大谷に票を入れたのかは不明だが、確実に言えるは、その多くが大谷のパフォーマンスに心を奪われたということだ。

 大会ベストナインに話を移す。選出するのは指名打者を含む野手9人と投手3人、計12人。記者が最も重視したのは、野手は打席数とOPS、投手は対戦相手だ。

 うれしかったのは投手部門でサンドバル(メキシコ代表)が選ばれたこと。エンゼルスでは大谷の同僚でもある左腕は準決勝で日本を大いに苦しめた。同じメキシコ代表のアロザレーナ外野手も記者が票を投じた一人だ。ヌートバー外野手は侍ジャパンにとって不可欠な存在だったが、どうしても世界のトップ3に入れることはできなかった。

 逆に悔しかったのは、一塁手部門の結果だ。選出されたのは台湾代表の張育成。1次ラウンドで敗退したチームで打率・438、2本塁打、8打点、OPS1・438の好成績を残し、A組MVPを獲得しているが、記者が推したのは岡本和だ。打率・333、2本塁打、7打点、OPS1・278。本塁打数を除けば、いずれも張を下回っているが、打席数は9つ多く、出塁率は張の・500を上回る驚異の・556だ。決勝戦で日本を世界一に近づけた2本の安打。いまだに納得いかない。(デイリースポーツWBC取材班・小林信行)

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