【スポーツ】リオ五輪“リレー侍”の現在地 木南記念に集結した4人 桐生の復活が刺激に

リオデジャネイロ五輪男子400メートルリレーで銀メダルを獲得した左から山縣、飯塚、桐生、ケンブリッジ
桐生祥秀
2枚

 陸上の日本グランプリシリーズ「木南道孝記念陸上」が今月6、7日にヤンマースタジアム長居で行われた。そこに、かつて日本中を熱狂させた4人が久しぶりに集結した。2016年リオデジャネイロ五輪、男子400メートルリレーで銀メダルを獲得した山縣亮太(30)=セイコー、飯塚翔太(31)=ミズノ、桐生祥秀(27)=日本生命、ケンブリッジ飛鳥(29)=ナイキ=の“リレー侍”だ。故障や病気、事故。雌伏の時を過ごしてきた4人が、それぞれの現在地を語った。

 男子100メートルの予選では、同種目の元日本記録保持者、桐生祥秀(27)=日本生命=が10秒03(追い風0・7メートル)を出した。3年ぶりの10秒0台。24年パリ五輪の参加標準記録は10秒00で「8、9月あたり」とメドを立てるが、前倒しになる可能性も予感させた。

 昨季は休養に充てた。重圧や故障は心身を痛めつけ、自身が大学時代から指定難病の「潰瘍性大腸炎」を患ってきたことも明かした。日本人として最初に9秒台を出し、短距離勢の看板を背負ってきた27歳は「自分自身の可能性を諦めずにここに戻ってきた」と胸を張り、再び「速い桐生を見せたい」と晴れやかな笑顔で語った。

 久々の桐生の勇姿を現場で見届けたのは、9秒95の日本記録を持つ山縣だ。盟友の復活に「感動しました。調子を上げてきていると思ったが、あそこまでとは思ってなかった」

 21年秋に右膝を手術し、レースは2季ぶり。先月の織田記念国際で1年7カ月ぶりの実戦復帰を果たし、10秒48(追い風0・5メートル)で予選落ちした。今大会は「これまでの自分を全部捨てて新しく1から力をつけていく」と専門外の200メートルに出場。21秒55(追い風0・9メートル)でこちらも決勝に進めず、100メートルを含めて世界選手権(8月、ブダペスト)がかかる日本選手権(6月、大阪)の出場はなくなった。

 しかし、照準はひとつだ。「全部来年のため。スタートラインに立って走って、思うような結果が出なかったことをみんなに見てもらって、自分の中で受け入れる」。それが、来年のパリ五輪につながると信じている。

 思いを後押ししたのが桐生の姿。「彼が春から200メートルにも積極的にレースに出ているのはさすがだと思った。覚悟のようなものを感じる。僕も負けないように頑張ります」と、今後も実戦の機会を探るという。

 21年8月(日大記録会)以来、1年9カ月ぶりのレースとなったケンブリッジも、桐生の姿を「刺激になる」と見つめた。昨年4月に交通事故に巻き込まれ、その後も右股関節の痛みに苦しんだ。この大会の2週間前にスパイクを履いたばかり。復帰戦となった100メートル予選は10秒53(追い風1メートル)で、決勝には進めなかった。

 4人の中では、最も長いトンネルにいたのかもしれない。しかし、「大きな目標だった(東京五輪の)代表を逃した。切り替えるという意味ではいい時間だった」とブランクを前向きに捉えている。2大会ぶりの五輪出場を目標に、今年は「自己ベスト(10秒03)ぐらいまでもっていきたい」と青写真を描く。

 来月32歳を迎える飯塚は、パリ五輪代表権のポイント獲得のためこの春は連戦をこなしてきた。今大会の200メートルは20秒57(追い風0・6メートル)で、成長著しい鵜沢飛羽(20)=筑波大=に敗れて2位。それでも「走りのイメージは固まってきた」と話し、終盤のレース展開にベテランの味を感じさせた。

 飯塚も、桐生の快走を「うれしいですよ。走っている桐生、いいっすよね」とわが事のように喜んだ。また、200メートルのレース前には「山縣と話せた」とうれしそうに明かし、「その中に鵜沢みたいな若い子もいて、いい関係」と刺激を与え合っている様子だ。

 リオ五輪から7年。日本は東京の決勝でバトンが渡らず、途中棄権となった。パリではお家芸の復活に期待がかかる。短距離勢は、鵜沢やこの大会で100メートルを制した坂井隆一郎(25)=大阪ガス=らが台頭している。元祖“リレー侍”に見えた明るい兆しが、新旧の競争激化につながるかもしれない。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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