【野球】甲子園球場でビジター球団のヒーローインタビュー場内放送が解禁された理由
阪神の本拠地、甲子園球場では今季からビジターチームが勝利した際のヒーローインタビューが球場内に流されている。日本一熱狂的とも言われる阪神ファンに配慮し、球団が“自主規制”してきた“タブー”はなぜ解禁に至ったのか。球団事業本部の阪本三千男次長に聞いた。
「歴史的な光景」と書けば大げさだろうか。甲子園開幕戦が行われた4月7日のヤクルト戦。阪神は1-1の八回1死一塁から山田哲人の2ランを被弾し、1-3で敗れた。試合後、三塁ベンチ前で山田のヒーローインタビューが始まった。その瞬間、誰もが目を、耳を疑った。バックスクリーンにインタビューを受ける山田の映像が映し出され、「積極的にファーストストライクからフルスイングするつもりでいきました」という第一声が球場内に届けられた。
勝利したビジター球団のヒーローインタビューの場内放送解禁。セ・リーグでは阪神と広島を除く4球団で実施されていた“スタンダード”だが、虎党に配慮し、球団はあえて避けてきた。
なぜ、歴史的な方針転換に至ったのか。阪本氏は「お客さんの層が変わってきて、女性や子供が増えたり、純粋に野球を楽しむファンが増えているというのが前提としてある」と前置きした上で、「お金を払って来ていただいているのは、タイガースファンだけではなくビジターのファンも同じなので、同じように楽しんで気分良く帰っていただきたいという思いがあります」と“おもてなし”の精神を強調した。ファンサービスという視座に立てば、ホームチームだけに向けたサービスであってはならない、野球ファン全体に向けたサービスであるべきだと阪本氏は言う。
そして最大の理由が「新規ファンの獲得」(阪本氏)だ。少子高齢化や人口減少により、新たなファン層の拡大はあらゆるプロスポーツにとって喫緊の課題となっている。阪神ファンは40、50代男性がコア層と言われているが、阪本氏によると、ここ数年は女性や子供の観客も増えつつあるという。「女性や子供のファン開拓に力を入れているので『来やすい球場』『来たら楽しんでもらえる球場』という環境づくりを心がけています」と説明。ヒーローインタビューの解禁は、その一つの施策でもあるという。
球団にとって史上初の試みだが、無用なトラブルを招きかねない事態も想定されただろう。球団内に抵抗はなかったのだろうか。阪本氏は「(解禁は)大きなことですので、事前に球団役員に説明したり、実際にトラブルに対応することになる甲子園球場さんの理解や協力も得ながら進めました。球場さんも『そうだよね』と、満場一致ですごく好意的に受け止めてくれた」と明かした。
岡田阪神が単独首位と好調なことも相まって、今のところ阪神ファンからの抗議や大きなトラブルはないという。SNS上や相手ファンからの評判もおおむね上々だ。阪本氏は「相手球団のヒーローインタビューということは、当然ウチは負けているということ。たくさんの阪神ファンにとっては良くはないのかもしれない」と虎党の心情に寄り添いつつも、「野球ファン全体に対してというところを優先させてやらせてもらった」と理解を求めた。
時代は変わった。球団は先日、公式サイトやSNSで「応援に関するお願い」と題し、「選手を誹謗(ひぼう)中傷するようなヤジ」や「侮辱的な替え歌」を慎むよう呼びかけた。阪本氏は「マイナスの部分を言い続けるだけではなく、プラスの取り組みもバランス良く増やして、みんなが来やすい楽しい球場にしていきたい」と力を込めた。
勝敗に一喜一憂しながらも、敵味方を越えて、その日一番の“ヒーロー”をたたえ合う様子が、聖地の新たな風景となるかもしれない。(デイリースポーツ阪神担当・山本直弘)