【野球】聖地で夢かなえた阪神園芸の元球児 母校の試合でライン引き、恩師から「ありがとう」

聖光学院対仙台育英のクーリングタイム中に打席のラインを引く阪神園芸・西上尚希さん=甲子園(撮影・伊藤笙子)
九州国際大付対土浦日大戦の前にグラウンド整備をする阪神園芸・西上尚希さん=甲子園(撮影・伊藤笙子)
グランド整備をする阪神園芸の西上尚希さん=甲子園(撮影・石湯恒介)
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 この夏、聖地で夢をかなえた元球児がいる。甲子園の“神整備”で知られる阪神園芸の新入社員、西上尚希さん(18)は、今夏の第105回全国高校野球選手権大会に出場している市和歌山の野球部出身。昨春のセンバツでは、記録員としてベンチ入りしていた。高校を卒業した今春、阪神園芸に入社。グラウンドキーパーとして、大会を支えている。

 今月9日、母校は東京学館新潟を下して2回戦に進出した。西上さんはその試合で初めて本塁の打席に白線を引く担当になった。「やはり普段とは違う気持ちでした。1、2歳下の知っている子たちがいる。うれしいと思うと同時に緊張感もあった」。仕事を終えて引き上げる時、一塁ベンチから恩師の市和歌山・半田真一監督(43)が「ありがとう」と声をかけてくれた。

 海南市の下津第二中から市和歌山へ進学した。2年前に小園(DeNA)、松川(ロッテ)のドラフト1位バッテリーを輩出した強豪では硬式野球の出身者が大半で、中学の軟式出身は2、3割。一塁手として「レギュラーから程遠かった」という高校時代は、一度も公式戦に出られなかった。

 しかし、誰にも負けない特技があった。グラウンド整備だ。野球を始めた小学生の時に甲子園大会を観戦し、その仕事に憧れた。高学年になると「自分の自転車の後ろに“はけ”をつけて引っ張っていた」。中学時代も毎日グラウンドに一番乗りし、トンボをかけた。聖地のグラウンドキーパーとして働くことが、いつしか将来の夢になった。チームに献身的に働く姿が、記録員としてのベンチ入りにもつながった。

 「世界一」と言われる阪神園芸の技術を、今はひたすら学んでいる。プロ野球ではイニング間に短時間でトンボをかけるため「とにかく穴を埋めることに集中する」。試合後は「(本来の場所から)移動した土を元に戻すのが難しい」と、甲子園の繊細な地形をすべて頭にたたき込まなければならない。高校時代に得意だった散水は、「ここでは水圧が全然違う」と、まだ思うように扱えない。

 実は今大会前には、家族にとって思い出に残る整備もできた。8月1日に行われた全国高校女子選手権決勝。2年ぶりに優勝した神戸弘陵ナインには妹の天菜内野手(2年)がいた。一塁を守る妹の健闘を祈りながら、黙々と仕事をこなした。

 母校は14日、2回戦で神村学園と対戦する。ひときわ暑い今年の夏。球児と同様に真っ黒に日焼けした18歳は「自分が整備したところでイレギュラーをなくしたい。決められた時間の中で、どれだけできるか」と自らと戦っている。

 「やりたい仕事ができている。天職だと思います」。実は選手時代は「ボールが怖かった」という。土を触っていると落ち着いた。「好きな野球を、別の角度から見る方が興味があった」。だからこそ「裏方」の仕事を全うする。夢を貫いた誇りを胸に。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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