【野球】なぜ審判団は走塁妨害を取らなかったのか 阪神・岡田監督が激怒したリクエストのジャッジ変更

 なぜ、審判団は判定を覆してしまったのだろうか。マイクを握った責任審判・敷田三塁塁審の説明を聞いて脳裏を駆け巡ったのは、悪しき前例にならなければいいのだが、という思いだった。

 18日に横浜スタジアムで行われたDeNA-阪神戦。九回1死一塁で、1点を追った阪神は代走・熊谷が二盗を仕掛けた。捕手・山本の送球はワンバウンドとなって二塁やや右にそれた。熊谷はトップスピードを維持したまま二塁に滑り込んだ。ベースカバーに入った遊撃・京田の体勢は崩れていたが、懸命に捕球してタッチまで持ち込んだ。タイミングはセーフ。小林二塁塁審の両手は横に広がった。それでもDeNA・三浦監督はリクエストを要求した。

 ビジョンにスロー映像が流れる。京田の左足が二塁ベースをふさぐ形になり、熊谷の足がベースに触れるスペースを覆い隠していた。明らかに邪魔となっていた。

 敷田三塁塁審はリプレー検証を経て、ジャッジを伝える前にマイクを握った。「セカンドベースのところで走者と野手が接触しましたが、(走塁)妨害ではないと致しました。よってアウト。試合を再開します」とアナウンスするとDeNAベンチは沸き返り、阪神・岡田監督は勢いよく三塁ベンチを飛び出した。

 リクエストを経た判定結果に異議を唱えることは禁止されている。だが、岡田監督は「放送が聞こえなかったから」(敷田審判)と説明を求め、審判団の見解には「足をあんな形でふさいでいた。妨害」だと納得しなかった。血相を変えて審判団に詰め寄る場面もあり、三塁側と左翼スタンドからは「岡田コール」が鳴り響いた。

 敷田三塁塁審は「故意とかいうのはないので、偶然あの形になった。お互い精いっぱいのプレーをしてああいう形になったので、ベースに届かないのはアウトにするしかないという答えを出しました」と京田の行為が故意ではなく、偶然に起こったプレーだから走塁妨害を適用しないと説明した。

 ここで走塁妨害のルールを見てみる。

 走者が野手に走塁を妨害されたことによって適用されるルールで、ボールを持って走者をアウトにしようとする時、打球や送球を処理する時を除いて、野手は走者のために走路を譲らなければならない。打球や送球を処理する時とは、打球や送球を捕球しようとするための動作、ボールをつかんで送球し終わるまでの動作を指す、とある。

 今回の京田のケースは前述の送球を処理する時に該当するのだが、審判団は故意ではないからと走塁妨害を認めず、岡田監督は足で妨害していたからと走塁妨害のルール適用を求めた。

 敷田審判は続けて「過去にもこういうのはあったと思うんですけど、妨害というふうにしたのは、きっとないと思うんですよね。あくまでも守備側に故意的なものが見えれば、フェアプレーじゃないと考えるんですけど」と付け加えた。

 小林二塁塁審はまず最初にセーフと判定した根拠について「足の確認ができて、ベースに足が着いているのと、その後のタッグだからタイミングでセーフ」と語り、続けて「リクエストでチェックして足が届いていないということでアウトにしました」と説明した。つまり、京田の足が二塁ベースを隠していなければ、セーフだったということを認めたのだ。

 元オリックス、巨人で、シーズン最多二塁打の記録を持つ谷佳知氏は「あれがアウトになるなら走者はつらい。私は現役時代、この試合の熊谷のように二塁ベースを完全に塞がれてアウトと判定された記憶はない。阪神には厳しい判定になったし、強く抗議した岡田監督の気持ちもよく理解できる」との見解を示した。

 今回の審判団が故意ではないことを理由に走塁妨害を取らなかったことで、今後同じようなプレーが起こった際、あくまで自然な流れを装ってベースを塞いだり、隠してしまう選手が出てくるのではないかと思ってしまうのはゲスの勘繰りだろうか。

 本塁上での無用な衝突行為を避けるため、2016年からコリジョンルールが導入されたが、コリジョンルールは本塁上のプレーにのみ適用されるもの。今回の熊谷は小林二塁塁審も認めたようにセーフのタイミングであり、熊谷に落ち度はないように思われる。勝敗を左右するプレーとなっただけに、SNSでも「どうやってセーフになれっていうの?」といった声が多く集まった。

 「俺は引かん!」と審判団に詰め寄っていた岡田監督だが、遅延行為で退場処分の対象となる抗議時間が5分を超える前に、小林二塁塁審になだめられるように三塁側ベンチに戻された。指揮官は試合後、「もうしゃべることないわ、ええよ」と会見には応じなかった。平田ヘッドコーチは「ショートがブロックというか、スライディングを邪魔したということでしょ」と話し、熊谷は「判定なんで、僕から言えることないです」と多くを語ろうとはしなかった。球団は試合後に審判団に説明を求め、今後、連盟に意見書を提出するか否かは検討材料だとした。

 前回監督時の2005年9月7日の中日戦でも猛抗議に出たシーンがあった。2ゲーム差で迎えたライバルとの一戦。2点リードの九回無死二、三塁で中日・谷繁の二ゴロを関本が本塁送球したが判定はセーフ。これに首脳陣が激高し、平田ヘッドコーチが退場処分。納得できない岡田監督はナインをベンチに引き揚げさせ、没収試合となりかねない中、18分後に試合再開。その後、同点とされてさらに1死満塁ピンチで岡田監督がマウンドの久保田に「めちゃくちゃしたれ。責任は俺が取る」と発言。これに発奮した久保田は渡辺、ウッズを連続三振。延長十一回に中村豊の劇的アーチが飛び出し勝利。この一戦がリーグ優勝へ加速した過去がある。

 1カ月ぶりの連敗。2位の広島が敗れたことで、優勝マジックは1つ減って28になった。それでも岡田監督にとっては、腑に落ちない敗戦となったに違いなく、禍根を残すプレーにならないことを願うばかりだ。(デイリースポーツ・鈴木健一)

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