【野球】「超変革」で加速した球団大改革 「補強の阪神」から「育てる阪神」に 球団の悲願ついに成就へ
秋風吹く甲子園球場が、熱気に包まれている。こんな雰囲気はいつ以来だろうか。
2008年。巨人に最大13ゲーム差を引っ繰り返された歴史的V逸は「メーク・レジェンド」と言われた。岡田彰布監督が引責辞任。真弓明信監督が指揮を執った2010年は、首位・中日と1ゲーム差の2位に終わった。矢野燿大監督時代の2021年は、両リーグ最多の77勝を挙げたが、首位・ヤクルトと0ゲーム差の2位に終わった。
2005年の優勝から、気付けば18年の歳月が過ぎた。歓喜の裏には、勝てなかった歴史もある。中野の二塁コンバートに、大山の一塁、木浪の8番固定。村上、大竹といった“新鮮力”の起用など、球団内外で今季から再び指揮を執る岡田彰布監督のマネジメント力を評価する声は多い。実際、勝てそうで勝ちきれないシーズンが続いた中、ベテラン指揮官の采配はズバズバと的中した。
ただ同時に、その戦力を作り上げた球団の努力を、忘れてはならないだろう。近本から始まるスタメンはノイジー以外、ドラフトで獲得した生え抜きの選手が並ぶ。金本知憲監督が指揮を執った3年間では、高山、大山と2年連続で野手をドラフト1位で獲得。「鳥谷以降、誰も育っていない」と、FAやトレードでの補強勧める声には耳を傾けず、中長期を見据えた若手育成に力を注いだ。球団首脳の1人は言う。
「金本監督の時から、軸となる選手は自前でしっかりと育てて、そのタイミングで足らない戦力は、適宜、外国人、FAで補強していく。そういった考え方は変わっていません。この方針をブレずに進めることができた」
一貫した球団方針の中で、フロントの“改革”も推し進めた。育成テーマにしたのは「考える力の構築」だ。転機は2012年度のドラフト。実に4球団競合の末、藤浪の獲得に成功した年だ。「若い選手が育たない」-というイメージを、払拭(ふっしょく)するため球団も必死だった。球団首脳が続ける。
「成長には『考える力』が必要ではないかと。ドラフトで獲得した選手が、しっかりとした成長曲線を描くためにどうすればいいのか。考える力の構築に重きを置き、フロントとしても支えていく。今もその育成プログラムは続いている」
考える力を養うために求めたのは、選手が自分自身と向き合う時間だ。ルーキーには入団前からノートを渡し、1日ごとに課題提出を義務づけた。A3の用紙にオフの間、1日ごとに練習内容を記入。5、10年後の将来像も描かせ、1週間単位で提出期限を設けた。入寮後はB5のノートを渡し、生活日誌の記入を求めている。これをファームディレクターやスカウト、本部長らで共有。球団全体で選手の思い、成長度を把握することで、育成の一役を担うように努めた。
また、屋外練習後は座学での講義も増えた。第一線で長く戦った球団OBを招き、兵庫県西宮市の鳴尾浜にある寮施設で若手選手を中心に、成功の秘訣を語る特別講義も度々、開いた。以前からあったトレーナーによる講習会も頻度を増やし、食育、メンタルトレーニングも取り入れた。元陸上選手の秋本真吾氏を招き、実践と講義による走り方講座を開くなど、育成プログラムの項目は多岐にわたる。同首脳は「球団としてしっかりとした育成方法を確立したい。少しでも選手の成長につながるヒントになれば」と続ける。
「補強の阪神」から、「育てる阪神」への超変革。近未来の常勝軍団形成を合言葉に、フロントも一丸となって戦ってきた。2005年の歓喜から18年。ついに大願が成就する日がやってきた。(デイリースポーツ・田中政行)