【野球】阪神・岡田監督と選手の距離感にほっこりしたビールかけ 岡田コールの連呼「ミエちゃん主役ちゃうよ」に「そんなの関係ねえ!」
何度見ても目尻が下がる。岡田阪神が18年ぶりのリーグ優勝を決めた後に行われた祝勝会。選手会長・近本の「バモース!」のかけ声を待たずに、フライングでビールかけが始まった。わずか20分で泡となった4000本のビール。前回優勝した2005年からこれまでの空白期間を一気に埋めた貴重な時間だった。
印象的だったのが、ビールかけ前にマイクを握った岡田監督の表情だった。グラウンドやベンチで見せる勝負師の鋭い眼光はなく、選手やスタッフの顔を見つめる視線は柔らかさに満ちていた。
ひな壇に上がった指揮官の言葉を待つ選手が「岡田っ!岡田っ!岡田っ!」とはやし立てる。マイクを手にした岡田監督の「球場でだいぶ言ったんでね、もうあんまり言うことないんだけど」という語りだしにも、「おっ、おっ」と合いの手が入る。何でも許される無礼講モードとはいえ、こんなに監督と選手の距離感は近くなったのかと感じさせたシーンだった。
生粋の関西人である岡田監督も負けてはいない。金色の大仏のかぶり物と、「本日の主役」と書かれたタスキを装着したミエセスを見つけると、「ミエちゃん主役ちゃうよ、今日は」と言って会場を爆笑に導いた。助っ人がお笑い芸人・小島よしおのギャグである「そんなの関係ねえ!」のパフォーマンスを繰り広げると、「ミエちゃん、成績にちなんだ暴れ方をしてください」と続け、再び爆笑をかっさらった。
岡田劇場は止まらない。「これからビールかけ始まると思うんだけど。みんな初めて、俺は4回目だけどね」という声に、今度は選手達が「おい、おい、おい」と、自慢話かよとばかりにツッコミを入れる。当然ではあるが、全員が戦場では見せない顔をしていた。
岡田監督は「今日はね、アレを成し遂げたリーグ優勝ということでビールかけだけど」とした後に、「もう一回するからね。1カ月後ぐらいにね。そのための今日は予行演習ということでね」と続けると、今度は割れんばかりの拍手と「オーッ!」という熱気あふれる声が飛び交った。
ビールかけが始まると、テレビ各局のインタビューに答える指揮官の頭の上から、繰り返しビールがかけられた。守護神として期待されながら、不振と故障に苦しんだ湯浅が、昨年まで二塁のレギュラーで今季からは代打に配置転換となった糸原が、屈託のない笑顔を浮かべて親ほど年の離れた65歳に容赦なくビールを浴びせ続けていた。「俺はゴーグルないんやて」と染みる目を何度もこすっていた指揮官も、最高のスマイルを携えていた。
昨秋の監督就任時には少なからずあったであろう監督と選手の間に横たわる“目には見えない溝”が、いい距離感を保ちながら埋まっていた。2004年の第1次政権時には47歳だった青年指揮官が、19年の時を経て人間的には丸みを帯び、プロ野球人としては野球脳をさらに高めて頂点に導いた。関西のみならず、日本のいたるところを熱狂に導いた9月14日。1985年以来、球団史上2度目の日本一を懸けた日本シリーズは10月28日に幕を開ける。CSを突破してシリーズ切符をつかみ取り、もう一度、あの笑顔を全国の阪神ファンに見せてほしい。(デイリースポーツ・鈴木健一)