【野球】阪神・西勇輝の捕手育成術に見たチームへの献身ぶり 城島を育てた工藤公康との共通項
「阪神タイガース2-0東京ヤクルトスワローズ」(26日、甲子園球場)
勝利目前の九回。一塁側ベンチ最前列に興味深い光景があった。肩や肘を冷やすアイシングポンチョを羽織った阪神・西勇輝投手が長坂拳弥捕手に身ぶり手ぶりを交えた熱い口調で語りかけ、右腕の言葉に長坂が何度もうなずくシーンがあった。
1軍で初めてバッテリーを組んだ2人。プロ7年目の長坂は、今季2試合目のスタメンマスクだった。序盤の三回まで、西勇がサインに首を振ったのはわずか1度だけだったように見えた。
長坂は左打者の内角を執拗に攻めた。3球続けて内角にミットを構え、結果的にアウトにはなったが、バットの芯で捉えられ、浜風に助けられ、押し戻される形になった打球もあった。それでも西勇は黙って投げ続けた。
経験値の高い先輩投手が実績のない捕手を育てる。かつてダイエー時代の工藤公康投手が城島健司捕手のサインに首を振らず、腕を振り続けたことは有名な話だ。配球に不満を覚えたとしても、打たれたことで反省し、城島の成長につながればという工藤流の教えだった。
四回以降、西勇は長坂のサインに首を振る回数を増やした。それでも長坂はリズムのいい指先の動きで、六回2死から塩見に右前打を許すまでの無安打投球を支えた。7回2安打無失点の好投をリードした長坂の今季スタメン初勝利でもあった。
西勇は「僕が良かったというより、1軍で初めて長坂と組んで、長坂のリードがすごく良くて、リズムよく投げられた」と女房役をたたえた。長坂は「西さんらしさを出せるようにという意識でした」と振り返り、今後に向けて「僕もある程度できるんだっていうところを見せられれば」と力を込めた。
梅野が左手首を骨折し、今季中の戦列復帰は絶望視されている。坂本の奮闘で18年ぶりのリーグ優勝まで破竹の11連勝を飾るなどしたが、3番手以降に位置する長坂、栄枝らの経験値の乏しさは否めない。しかし今後、坂本に不測の事態が襲いかかった場合や将来を見据えれば、長坂らの捕手の成長は欠かせない。
西勇はヤクルトのオーダーが浮かび上がるオーロラビジョンを見ながら、球種やボールの動きを指先で示しながら、組み立て方を懸命に指南していた。無我夢中でリードして7回無失点という結果を残した後、早い段階で改めてこの日の配球パターンや攻め方をおさらいできたことは、長坂にとって1試合以上の経験値となることだろう。
投手と捕手の間においても、監督が戦場に送り出す意味においても、特に捕手に求められるのは安心感と信頼感。CSファイナルSまで残り5試合。貴重な1軍の舞台となる。(デイリースポーツ・鈴木健一)