【競馬】馬券に役立つ“風と馬との関係”

 競馬予想のファクターに天気は切り離せない。馬場状態がレース結果に直結するからだ。天気予報はレース当日だけではなく、前日も欠かさずチェック。晴れや雨だけではなく、馬場の回復につながる気温にも注意を払う。天気予報がハズれると、競馬予想も的中から遠ざかる。そう言っても過言じゃない。

 先日、日本気象協会とデイリースポーツがコラボするYouTube動画配信に出演させてもらった。猪股竜彦気象予報士が天気という側面から、記者は取材から神戸新聞杯を予想するというもの。当日の風向きも話題になり、「直線は追い風になる」と猪股さん。ただ、こちらは風と競走馬の関係性を持ち合わせていない。風による脚質の有利、不利など明確な回答ができなかった。

 競馬場では国旗によって、風向きやその強さを知ることができる。紙面掲載の予想段階では風向きは分からないが、風と馬の関連性が分かれば、当日、競馬場で馬券を購入する競馬ファンにとって大きなヒントになるのでは?そう感じた。こういった疑問や質問に、いつも分かりやすく、丁寧に解説してくれるのが川田将雅騎手。ストレートに聞いてみた。風と馬との関係について、ジョッキーはどう感じているのか-。

 「関係は大いにありますよ」。川田Jがこう断言する。続けて「(福永)ユーイチさんと僕は風によって乗り方を変えていますから。ゲートを出てポジションを取ってみたら、同じところにユーイチさんがいるんです。考えることが一緒」と笑っていた。2月末に騎手を引退した福永調教師と川田Jに共通するのは、理論派で細かな事までとことん追求すること。そんな2人が風への意識が強いというのだから、ますます風と馬の関係が気になる。

 さらに詳しく説明してくれた。「人間と一緒です。トラック競技も追い風の方が時計は出る。追い風だとタイムに風補正をするでしょう?それと一緒」。確かに、陸上競技では100、200メートル、走り幅跳びなどで平均秒速2・0メートルを超える追い風が測定された場合、記録は公認されない。

 競馬に風補正はなく、どんなに強風でも記録として認められるが、影響は大きい様子。川田Jは「走りやすくなったり、走りづらくなったり。自然とスピードが出ていたり、出にくかったり。向正面で走りやすいのか、直線で走りにくいのか。それによってゴール前の勢いが変わる」と力説する。

 例えば、右回りで1コーナーから4コーナーに向けて風が吹くとしよう。馬にとって向正面は追い風になり、直線は向かい風を受ける。「そうなると直線は伸びない。空気抵抗が強くて馬も動きづらい。追い風なら、勝手に動く。下り坂と上り坂のようなものだけど、体感的にはそれよりもきついかな。坂を上って、動けないと感じることはそうない。でも、向かい風で進まないのはすごく感じる。だからこそ、それを考えて競馬を組み立てます」。深掘りすると、なかなか面白い。

 ひとつの疑問が浮かぶ。直線は向かい風でも、バックストレッチは追い風だ。「プラマイゼロではない。馬にとって、きついのはゴール前ですから」。たとえ、無風であっても、各馬に共通するのは最後の直線が一番しんどいということ。歯を食いしばる場面で、向かい風か、追い風かは極めて重要だ。

 競馬場によって風の種類は違うのだろうか。「そうなりづらい競馬場の造りをしている。ただ、阪神だと六甲おろしが吹いて直線が向かい風に。京都も盆地のわりに、直線が向かい風になることが多い。関西圏は風が吹くイメージですが、東京や中山で風が強くてどうこうと経験した記憶がない。地形でしょうね」。予想や馬券購入の観点で言えば、阪神と京都は特に風に注目した方がいいというのだ。

 さすがリーディングジョッキー。風をどう利用するかまで考えている。「僕にとって、その日の風向きは、すごく大きなファクターです。それが右から吹くのか左から吹くのか。受けていい風か、受けちゃいけない風か。ポジションによって風を使い分ける。追い風なら受けていい。それを使って加速させることも、ポジションアップすることもできるし、横からの風なら隣に馬を置くことで風よけにするという使い方もする。だから内へ潜り込む」。レースを進めながら、風とも向き合って最善の策を探り出す。まさにプロフェッショナルだ。

 馬体のサイズによっても、風の影響は違うのだろうか。そんな疑問には「うーん…。これがなかなか難しくて」と考えながら、持論を展開する。「体が大きい方が表面積がデカい。風を受ける面積からも影響がありそうだけど、体が小さいと風にあおられる。デカい方がパワーのある分、同じ風圧にも少し耐えられるという面があるんです」。大型馬の方が向かい風にも立ち向かえるようだ。

 風から連想するレースがある。今年新装した京都競馬場。その初日となる4月22日に迎えた11R京都競馬場グランドオープン記念だ。ちょうどこの時間、淀には記録的な突風が吹き、直線は強烈な向かい風だった。逃げ切ったのがドンフランキー。その後、重賞を勝ったように強い馬ではあるが、2着馬サイクロトロンも3番手を進めた先行馬。川田Jが騎乗したサンライズアムールは中団から差し届かずに3着だった。「そう、あれが顕著です。向正面は追い風で前に有利。サッとポジションを取れて、直線は向かい風で後ろは進んでこないから前が残る」と解説する。ちなみに、1着から7着までが馬体重500キロ超え。472キロの4番人気馬レッドゲイルが8着に敗れるなど、400キロ台の馬8頭は下位に沈んだ。

 風の抵抗を受けることを加味し、策を講じて臨んだレースでもあったという。「ギリギリまで風を受けない位置にいて、最後につかまえないといけないタイミングで外へ出すのですが、風にあおられて差が詰まらない。僕の姿勢を見てください。風を受けないように、めちゃくちゃ低いですから。傘をさして向かっていくよりも畳んだ方が進んで行く」。改めてVTRを確認すると、他の騎手らに比べて川田Jは姿勢が低く、直線もなかなか外へ出さずに前の馬を風よけに使っていることが確認できる。トップジョッキーの思考と実践力に驚かされた。

 最後に、馬券検討に役立つ結論を。最後の直線で向かい風だった場合は逃げ、先行馬が有利。それが馬体重の重い馬ならなおさら買いだ。逆に、追い風の場合は差しも台頭する。そして、風の利用法を熟知する川田Jは買っておこう。今回の取材が的中の“追い風”になることを願うばかりだ。(デイリースポーツ・井上達也)

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