【野球】批判と不満を敢然と受け止めた中日・立浪監督 再出発を誓ったミスタードラゴンズはどこまで変化できるのか
中日一筋で生きてきた男に強烈な逆風が吹きつけた。通算2480安打を放ち、ミスタードラゴンズと称されてきた立浪和義監督が、ファンの怒号、ブーイング、批判、不満を一身に浴びていた。異様な光景だった。
今季最終戦となった10月3日の巨人戦に敗れた。堂上、福田、大野奨、谷元の引退セレモニーが終わった後、マウンド前に設置されたスタンドマイクの前に立った立浪監督が口を開くと、拍手や声援に入り交じって、「辞めろ」「うるせえ」など、指揮官の言葉をかき消すような声が、スタンドの四方から巻き起こった。
「ファンの皆さん、1年間たくさんのご声援を頂き、また球場にたくさん足を運んで頂きまして本当にありがとうございました。今年のドラゴンズの成績と、私への批判、不満。これをしっかりと受け止めて、秋から再出発します。今年この成績にも関わらず、たくさん球場に足を運んで頂いた、それは若い選手への期待、そしてファンの皆さんのドラゴンズに対する熱い思い、そう受け止めてます。私にはこの若い選手を一人前にするという責任があります。そして来年、生まれ変わったドラゴンズを皆さんにお見せできるよう、秋から全力で頑張って参ります。来年期待してください。1年間ありがとうございました」
約1分半のあいさつ。監督就任から2年連続Bクラスに終わったことに対するファンへの謝罪、そして3年契約最終年にかける再出発の誓い。立浪監督は「私への批判、不満」という言葉を用い、これまでの野球人生であまり味わったことがないであろう逆風をよけようとはせず、真正面から真摯に受け止めた。
中日が負けるたび、立浪監督の采配に対する批判コメントがSNSで躍った。在任8年間でリーグ優勝4度、日本一1度と輝かしい成績を残した落合博満氏が監督を務めた2011年を最後に優勝から遠ざかる。後任の高木守道氏、谷繁元信氏、森繁和氏、与田剛氏が成し遂げられなかったリーグ制覇。バトンを託されたのが、ファンが中日の指導者としての現場復帰を長く待ち続けた立浪和義氏だったから、ファンの期待度はとてつもなく大きかった。
就任会見で立浪監督は「打つ方は打てないと言われましたが、必ず何とかします」と宣言しながら、好投を続ける投手陣を援護できない負けが多くを占めた。チャンスは多く作った。でも、あと一本が出ない。そんな試合が続くと、ネット上には当事者の選手への批判よりも、立浪監督への不満が続々と広がった。打てないなら、打たせるようにするのが指導者の仕事-というスタンスに基づく批判だったのだろう。
得点力不足解消を課題としながら、阿部や京田をトレードに出し、3年目の近藤が1イニング10失点した8月25日のDeNA戦で途中交代させずに62球も投げさせたことに加え、次のチャンスを与えずに翌日に登録抹消したことなども重なり、立浪批判は加速していった。
引き分け以上で球団史上初となる2年連続最下位を回避できる状況だった今季最終戦でも貧打快勝の兆しを感じ取れなかったこともあり、感動ムードに包まれた引退セレモニーから一変して、立浪監督のあいさつ冒頭では強烈なヤジが飛んだ。
だが、9月15日に立浪監督の来季続投が発表されてから、バンテリンドームで行われた6試合は3万6000人を超えるファンでスタンドが埋め尽くされた。不満を覚えるファンがいるという事実は消せないが、一方でミスタードラゴンズが中日を再建することに期待を寄せるファンがいることを、この観客動員数が示している。
引退試合で堂上、福田の元に出向いて握手を交わし、谷元と大野奨が出場する際にはマウンドまで足を運んだ指揮官。チームとしてのまとまりを感じるこのスタイルの継続をファンは強く求めている。多くの感情を表すことなく天才打者と呼ばれた現役時代から、時は流れた。指導者に求められる理想像も変化している。野球だけでなく、選手が監督に合わせるのではなく、監督が選手に合わせることで好成績を残す集団も多くなってきた令和の時代。
今季全日程が終了し、セ・リーグではどこよりも早く来季へのスタートを切ることができる。不退転の決意で挑む2024年。選手の成長に加え、立浪監督がどこまで変化できるかが、浮上のカギとなるのではないだろうか。(デイリースポーツ・鈴木健一)