【野球】阪神のスカウティングが成功する理由とは?評判の選手より「チームに必要な選手を」方針の変化で育成と一体感
ドラフト会議が前日に迫ってきた。今季、18年ぶりのリーグ制覇を果たした阪神。近本&中野の1、2番コンビ、さらにドラフト1位クリーンアップなど生え抜き選手たちがチームの主力となって強さを発揮した。
FA補強などに頼っていた2010年代から様変わりしたタイガース。その要因がドラフトで獲得した選手の活躍だろう。阪神担当、アマチュア野球担当として阪神のドラフト戦略を取材してきたが、スカウティングの変化を感じるシーンがあった。
2018年オフ、現畑山統括スカウトが就任して以降、「補強ポイントに沿って選手を指名していく。チームに必要な選手を」と語っていたのが記憶に残る。20年度ドラフトでは即戦力左腕の早川を獲得するか、それとも左の長距離砲の佐藤輝を獲得するか。意見が分かれる中、畑山統括は佐藤輝の獲得を主張。それは「福留が引退して、左打者でロングを打てる選手が必要になる」という分析のもと、先発左腕よりも左の長距離打者が必要と判断したためだ。
さらに2022年は右打ちの外野手という補強ポイントを洗い出した上で、高松商の浅野を1位指名。抽選でクジを外したが、同じ右打ちの外野手・森下の交渉権を獲得した。
下位指名でも補強ポイントをつぶしていく上で、20年度は2位・伊藤将、5位・村上、6位・中野、8位・石井と“神ドラフト”と呼ばれた。翌21年度は次代のエース候補として1位で小園を指名したが、競合で敗れ、同じ高卒右腕の森木を獲得。不足気味だった左腕補強のため、2位で鈴木、3位で桐敷と立て続けに指名し、桐敷は今季、リリーフとしてブレーク。侍ジャパンのメンバーにも初選出された。
なぜ前評判が高い選手よりも、チームに必要な選手を指名するのか。「スカウトとして一番うれしいのは選手を使ってもらえること」と語っていた畑山統括。補強ポイントを無視して注目選手を獲得すると、特に野手の場合は一つのポジションを巡ってつぶし合いになる可能性がある。伸びてきている芽を摘み、逆に新人選手にとっては高いハードルとなってしまう。
金本監督時代に大山を指名したのも「このチームには右の長距離を打てるバッターがいない」という方針があったため。現状のチームに欠けている、その穴を埋めるために必要な選手を獲得することで、ルーキーに大きなチャンスが生まれる。そこを生かす、生かさないは選手次第。ただ成功する確率は非常に高い。
それも2月のキャンプをスカウト陣が視察し、現有戦力を目に焼き付ける。それを基にスカウティング活動を行い、ドラフト候補と比較を重ねていく。選手の力量、チームの年齢構成を徹底的に分析した上で、足りないポジションで獲得したルーキーたちは多くのチャンスを得ることができる。そこで結果を残し、実戦経験を積んでいくことで主力へと成長。そしてチームの骨格を担うという好循環になっているのが今の阪神だ。
ここ10年のドラフト1位を見ても、同じタイプにこだわって選手を指名している。18年度は大阪桐蔭・藤原を抽選で外し、立命大・辰己も競合で敗れた。外れ外れの1位で交渉権を獲得したのが近本。いずれも左打ちの外野手だが、近本は今、不動のトップバッターとして欠かせない存在だ。
畑山統括スカウトがまだ要職についていなかった際、「スカウトにとって、一番ありがたいのは選手を使ってもらえること」と語っていたのを思い出す。今年もスカウト陣が全国を回って逸材候補をリストアップ。26日のドラフト会議では“阪神が評価した選手”という事実が、前評判を覆す結果になるかもしれない。(デイリースポーツ・重松健三)