【競馬】新たな二刀流ジョッキー・鷲頭虎太「やる以上はトップを目指したい」

 熊沢重文騎手(55)=栗東・フリー=が11日、38年間の騎手人生に別れを告げた。史上初の平地・障害でのG1制覇、そしてともに200勝超え。障害での勝ち鞍はJRA歴代1位となる257勝をマークした鉄人だった。京都競馬場での引退式では「やり残したことはほぼない」と晴れ晴れとした表情を見せた一方で、障害の第一人者として“障害レースの人気低迷”への憂いも口にしていたのは印象的だった。

 その翌週の18日。レジェンドなき障害界で新たな騎手がデビューした。2年目の鷲頭虎太騎手(19)=栗東・千田=だ。デビュー2年目での二刀流挑戦は偶然にも熊沢さんと同じ。福島5Rの障害OPで9番人気のタマモワカムシャに騎乗すると、飛越をスムーズにこなし、初障害とは思えない落ち着いたレースぶりで3着に食い込んだ。

 「初障害ということもあって、周りのジョッキーの方からも気を使っていただいたと思うんです。まずは無事に終わるのが目標でしたけど、ケガを恐れて中途半端に乗るのは良くないと思っていました。その中でも、いい意味で無難に乗れたかなって。先輩ジョッキーからも評価していただいてありがたいです」。鷲頭は、ホッとした表情で“初陣”を振り返った。

 「ほぼ、ぶっつけ本番」というように、障害練習に取り組んだのはわずか1週間足らず。「食堂でご飯を食べている時に、(小牧)加矢太君に『障害やらへんか』って。水沼も両方やっていましたし、平地での技術向上のためにやりたいなと決めました」。

 限られた時間で福島の障害レースの過去映像を繰り返し見て、コース形態、飛越のタイミング、仕掛けどころを頭にたたき込んだ。「(小牧)加矢太君にもレースの要点を教えてもらって、シミュレーションをしました。競馬学校でも障害はやっていましたし、そこから時間もあまりたっていないですからね」と、さらりと言うあたり、なかなか肝が据わっている。

 師匠の千田師は「僕は障害に乗ったことがないから何も教えてあげられないんだけどね。ケガのリスクと平場への影響は伝えた。馬乗りだから怖くなったら、やめろとしか言えない。自分でやりたいと決めたならやる。もう子どもじゃないしね」と厳しい言葉が並ぶが、その節々には親心も垣間見える。

 一方、「恐怖心は全然なかったです。これから出てくるかもしれませんけどね。それよりも『もっとこうしたい』っていう欲の方が出てきいます」とは当の本人。新たなチャレンジに一歩足を踏み出すと、また違った景色が見えてきた。「随伴(馬の動きに合わせて騎乗者が重心を移動すること)だったり、ミスステップした後の対処。飛越までに歩数が合わなかった時にどうするか。本当に改善点だらけですよ」と目を輝かせる。

 「障害ってすごく考えることが多いです。障害を飛ぶのも1頭だけじゃないし、他の馬の妨害をしないように周りの動きを見て視野を広げないといけない。障害の方がハミに強く掛かる馬が多いですし、折り合いのつけ方、スタミナの持たせ方の点でも学びは多いです」。純粋な騎乗技術の向上は平場のレースにも当然つながる。

 その平地では現在、昨年の7勝を上回る10勝をマーク。「本当にへたくそだったんですけど、少し自信を持てるようになりました」と分析するのがスタートの改善。「臆病な馬、イレ込む馬、一頭一頭に合った出し方ができるようになってきたかなと思っています。以前は僕がゲート内でガチャガチャしすぎました。スタートを出て前に行けるようになってきたと感じます」と手応えを口にする。

 今後の目標について、「平地はトップジョッキーになりたいという思いは変わりません。そして、やる以上は障害でもトップを目指したい」と力強く語った鷲頭。新たな二刀流ジョッキーのこれからの歩みに注目したい。(デイリースポーツ・島田敬将)

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