【野球】現在の辛抱がドジャースの未来を作る 大谷翔平の“後払い”契約は「令和版・米百俵の精神」か
大谷翔平(29)の“後払い”契約は、「令和版・米百俵の精神」か。「米百俵の精神」とは、現在の辛抱が将来利益となるという象徴的な話だ。
大谷がプロスポーツ史上最高額となる10年総額7億ドル(約1015億円)で名門ドジャースに移籍することになった。だが、AP通信によると在籍10シーズンで彼に支払われるのは1年あたり200万ドル(約2億9000万円)の計2000万ドル(約29億円)。残りの6億8000万ドル(約986億円)は契約終了後の34年から43年までの間、年間6800万ドル(約98億6000万円)ずつ手にすることになるという。
これにより、ドジャースには年俸の総額が一定額を超えた球団に課される「ぜいたく税」への余裕が生じる。その金銭的な余裕をさらなる戦力補強費に回してもらい、自身の悲願でもあるワールドシリーズ制覇に前進しようとする大谷の発案だという。このアイデアに小泉内閣発足直後の国会での所信表明演説で、当時の小泉純一郎首相が引用した「米百俵の精神」という言葉を思い出した。この言葉は2001年の流行語大賞にも選ばれている。
「米百俵の精神」とは幕末から明治初期にかけて活躍した長岡藩の藩士・小林虎三郎による教育にまつわる故事で、後に山本有三による戯曲でも有名になった逸話だ。その内容はこうだ。幕末に起こった戊辰戦争のひとつ北越戦争に敗れた長岡藩は、懲罰のため7万4000石から5万石減らされた。当然、藩の財政は窮迫し、藩士たちはその日に食べる食事にも困窮するありさまだった。そんな窮状を見かねた長岡藩の支藩・三根山藩が援助のため、百俵の米を贈ったという。
このプレゼントに藩士たちは当然喜んだ。ところが、藩の大参事・小林虎三郎はこれを売却。学校設立の費用とすることを決定する。当然、飢えた藩士らは猛抗議するが、その際に虎三郎が口にしたのが「百俵の米も、食えばたちまちなくなるが、教育にあてれば明日の一万、百万俵となる」という話だった。売却金によって開校したのが「国漢学校」で、現在の長岡市立阪之上小学校、新潟県立長岡高等学校の前身となっている。
大谷の今回のFA移籍は、まさに売り手市場。毎年7000万ドル(約101億5000万円)を手にすることは簡単だろう。確かにプロアスリートは、その収入で評価される部分は大きいかもしれない。だが、今後10年は在籍するチームをより強くするため、自分の年俸額が補強の足かせにならないように配慮した献身的な契約は、まさに「米百俵の精神」だ。
小林虎三郎は米百俵で子供たちの未来を作った。大谷は契約終了後になって手にする6億8000万ドルで、チームの未来を切り開こうとしている。(デイリースポーツ・今野良彦)