【野球】山川穂高と西川龍馬 明暗を分けたチームの去り際と送り出され方 新天地でのファンの迎えられ方にも温度差が出た今オフのFA

 今オフ、プロ野球では7選手がFA宣言し、うち4選手が新天地への移籍を選んだ。FAは長い年月をかけて取得した選手の権利。使う、使わない、移籍する、しないは個人の自由なのだが、ファンや球団に快く送り出された選手と、そうでなかった選手の明暗がくっきりと分かれた。

 11月23日に行われた広島のファン感謝デー。新井監督は「まず私の挨拶の前に、8年間カープで頑張ってくれました西川龍馬より皆様にひと言お礼を申し上げます」と、国内FA権を行使してオリックス移籍を決断した西川龍馬外野手に挨拶を促すと、多くのファンで埋まったスタンドからは「龍馬ぁ!」という声援と共に、温かい拍手が寄せられた。

 西川が「来年のオープン戦、交流戦で戦えるのを楽しみに、その時は全然ヤジってもらって構いません。それをパワーに変え、僕はこれからやっていきたいと思います」と話すと球場は笑いに包まれたが、何より印象的だったのは、西川が挨拶する後ろ姿を見つめる新井監督、大瀬良らの視線の優しさだった。

 オリックスへの移籍を決め、ファン感謝デーへの参加を躊躇していた西川に対し、鈴木球団本部長は「胸を張って参加しなさい」と背中を押した。そして、新井監督は挨拶後の西川と握手を交わし、優しく肩を叩いて慰労した。「寂しいですけど、頑張って来いよ」と語りかけると、選手も拍手を送った。このシーンこそ、球団、監督、選手、ファンに愛され、快く送り出されたことを示すものだったのではないだろうか。

 一方、10年間お世話になった球団への不義理が目立ち、ファンの信頼も損ねる形となったのが山川穂高内野手だ。知人女性への強制性交の疑いで書類送検され、嫌疑不十分で不起訴処分となった一連の騒動。10月5日に処分確定後初めて取材に応じた際には謝罪の言葉を並べたが、11月14日にFA権行使を表明した際にはコメントを出す形を取った。同26日に開催された「LIONS THANKS FESTA 2023」には姿を見せず、公の場でファンに謝罪することなく、今月19日のソフトバンク移籍会見となった。

 山川は会見で「去就が決まっていない状態でしたので、なかなか挨拶できずにすごく悔やんでますし、しっかり自分の口から皆さんの前で挨拶したかったんですが、日程的なこと、ここまで時間が掛かってしまったこともありますので」と釈明したが、「ファンの方に挨拶するのはここで述べた言葉で挨拶という形になってしまいます。本当に申し訳ないですが」と続けたことで、ファンを軽視したことに対する批判の声がさらに大きくなった。

 義理、人情を重んじる日本特有の文化から、来年1年は西武に恩返しをして、来オフにFA権を行使して他球団に移籍するべきという声が多かったように思う。ただ、それ以上に目立ったのは、他球団に移籍するならば、一連の不祥事があっただけに、移籍会見前に今まで応援してくれたファンに懺悔の言葉を発するべきではなかったかという声だ。

 それに付随して、笑顔こそ一切封印した会見ではあったが、あごヒゲが伸びた状態だったこと、スーツの前ボタンが締められていなかったことにも批判が上がる“カオス”となり、ホークスファンからも「ホームラン打っても喜べない」「この球団のコンプライアンスはどこに?」といった声が上がるなど、新天地で温かく迎えられたとは言いがたい。

 プロ野球界では「ファンが選手を育てる」という言葉をよく聞く。逆に言えば、選手はファンに育てられ、成長する側面を持つ生き物だということ。全面的にではないが、少なからずの後ろ盾を失った山川。信頼を失うのは一瞬で、築き上げるには相当な時間を要すだろう。強い逆風にどう立ち向かうのか。一方、西川はリーグ4連覇への使者という期待の追い風を生かすことができるのか。両極端なコントラストを描いた今オフのFA狂騒曲だった。(デイリースポーツ・鈴木健一)

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