【競馬】意外に知られていない最終レースの仕組み 20日京都12Rに超異例の未勝利戦を組んだ理由とは
競馬ファンの中には、気付いた人もいるだろう。不思議なことに、20日の京都12Rに3歳未勝利戦が組まれている。
前半に未勝利戦が行われ、新馬戦を挟み、後半になるとクラスが上がる。これが一般的な一日の流れだが、この日だけ、12Rが未勝利戦。芝1600メートルで行われる。
この時期の京都12Rには、いくつかの条件があるという。JRA関西広報室の辻智之上席調査役に説明してもらった。「特に11月から1月、京都の最終レースの時間帯は西日が強くて危険。直線は正面から日が照り、ダートだと砂の反射がきつい。そのため、最終レースは芝で行うことにしています。安全確保の面から、というのがその理由です」。実際、昨年11月に行われた京都競馬も12Rにダートが組まれたのは特別レースの2鞍だけだった。
今年の第1回京都競馬は7日間開催され、12Rはすべて芝のレースが組まれている。では、なぜ未勝利戦なのか。20日は7R(1勝クラス)、8R(2勝クラス)がともにダート。特別レースを除いた9鞍のうち、芝のレースは未勝利戦の2鞍、新馬戦の1鞍だけだ。
ところが、翌日(21日)の7R(1勝クラス)に芝2200メートルが組まれている。20日の7Rに組まれた同じ1勝クラスのダート1900メートルと入れ替えた上で、このレースを12Rにすればいいのでは?“12Rは芝で”という条件を満たし、問題ないと思うのだが…。「1勝クラスの芝2200メートルは頭数が少ない。最終レースは頭数が見込めないと発売金にも影響するためです」と辻上席調査役だ。西日対策と頭数確保の観点から、苦肉の策で芝1600メートルの未勝利戦が12Rになったというわけだ。
ところで、西日の影響はどれほどなのか。ジョッキーに取材した。「車の運転をしていて西日で急に見えにくくなりますよね。あんな感じで見えない。競馬だと、ゴーグルに砂が付いて、反射があるのでなおさら。阪神でも、京都でも、ひどい時はひどいですよ。芝でも(西日の影響は)あるけど、まだまし。ダートは反射がある分、まったく見えないことがある」とは松山Jだ。
また、藤岡康Jも「ダートはエグいです。(ゴーグルの上に着ける透明の)板にダートが付くと、乱反射して視界が真っ白になる。板を着けていなくても、ゴーグルに付くし。芝でも見えづらいのに、ダートだと全く見えない」と証言する。
この2人がそろって口にしたのが次の言葉だ。「僕は、西日が影響して落馬しています」。ダート1400メートルで行われた10年9月19日の阪神12R。京都ではないが、やはり最終レースだ。カンファーネオの国分恭Jが、前の馬に触れて落馬。そこから5馬身ほど後ろにいたスリーコンコルド騎乗の松山Jが突っ込んでいく形で落馬し、さらにその後ろからケンブリッジシーザ騎乗の北村友J、ヨドノブラボー騎乗の藤岡康Jと、計4頭が落馬した。
藤岡康Jが振り返る。「西日で前が真っ白になって。ウワッて思って。一瞬なんですよ。前で3頭転がっていて、それに突っ込んだ。レースを終えたジョッキーも、みんな“怖い、怖い”って。騎手会からも12Rのダートはやめてほしいと要望を出し続けています」。12Rを芝にこだわる理由がよく分かる。大惨事が起こらないよう、これからも人馬の安全を優先させた番組作りを願うばかりだ。
“12Rの未勝利戦”は01年10月21日の新潟で行われて以来、約22年ぶりのレアケースだ。当時はダートのレースで、コース形態からも西日対策ではない。また、調べられる範囲の1986年以降、京都12Rに未勝利戦が行われたことは一度もなかった。意外に知られていない最終レースの仕組み。JRAの番組制作も簡単ではないようだ。(井上達也)