【野球】阪神・森木「投げるのが下手」の真意とは?青柳からかけられた意外な言葉
取材現場の舞台裏を描く新企画「スポットライトの裏側」。今回は今季高卒3年目の阪神・森木大智投手(20)について。7日に地元・高知で「はたちの式典」に出席した新成人右腕。苦しんでいた昨季、エース・青柳からかけられた意外な言葉の真意や、2人の関係性が始まった秘話とは-。
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思いがけない言葉だった。「森木は投げるのが下手」-。昨夏、首脳陣と相談して1カ月半ほど実戦から距離を置いていた森木。そんな時、2軍調整中だった青柳からかけられた一言だ。
「投げる事に関してあまり困ったことはなかった」という森木にとって、言われた経験の少ない言葉。ただ、ふに落ちた。当時の状態をこう例えている。
「木の幹が朽ちて細くなっていて、枝葉の方に栄養がいきすぎていた感じ。だから、マウンドで修正しようにも、葉が多すぎてどれをチョイスして良いか分からなかった」
プロ1年目に1軍で2度先発も未勝利。昨季は1軍登板なしに終わった。「1軍を経験した分、勝ちたい、ゼロで抑えないとって自分で自分を追い込んでました」。22年秋に発症した首の張りの影響が尾を引いたことに加え、野球への飽くなき向上心を持つがゆえに、知らず知らずのうちに情報過多に。対打者ではなく、自分との勝負になってしまっていた。「新しく『根本から植え替える』イメージで。またうまくなれば良いやと開き直れました」。「下手」を認め、トレーニングの種類を一から見直すなど、頭と心を整理する作業に徹した。
もちろん、先輩右腕も決して悪意を持って伝えたのではない。青柳は言う。「森木のポテンシャルはえぐい。ポテンシャルだけしかなかったら、練習してもそれ以上はない。でも、森木は『下手』だから練習すればうまくなる」。入団当初から秀でていた森木の能力を信じるからこそ、発せられた一言だった。
森木にとって青柳との対話が始まったきっかけは、実は“盗み聞き”だ。1年目の22年、遠征中の残留練習で青柳も鳴尾浜に滞在。その際、「ヤギさん(青柳)が村上さんとかにアドバイスしてる近くに行って、聞き耳を立ててました。1年目でなかなか直接は行けなくて…」という。ただ、ひそかに取っていた行動は、先輩右腕には“バレバレ”だった。
「分かってたね。アイツ、オレが頌樹(村上)とかとしゃべってる横にスッているから(笑)。今は当事者として森木の意見も聞きながら話せる」と青柳。自身も不振で苦しんでいた中、後輩にとっては貴重な会話の時間となった。
森木は現在、フォームの姿勢改善や直球の精度向上をテーマに、初めて万全の体でオフを過ごす。「下手くそなんで、僕。だからやらないと」。念願の初勝利へ、エースからの“愛情”を力に、前へと進み続ける。(デイリースポーツ・間宮涼)