【野球】阪神・岡田監督が語る温故知新「昔はグラウンドまで降りてきてたよ」球界がよりよい方向へ進むきっかけになるか

 阪神・岡田彰布監督が16日の監督会議後に発したエピソードが興味深かった。いくつかの提言があった中、記録員についての話題になった時だ。

 「これは自分の意見ですけどね」と前置きした上で「昨年も何回かあったんですけど、選手の立場というか、現場の意見として、去年、おととしと最多安打が2人同時達成になった。これは最終的に143試合の中で積み重ねなんですけど、例えばエラーが内野安打になった、その1本が最終的に163本目のヒットになってたかもしれない。それくらい選手はシビアにタイトルに向かって頑張っている」と訴えた。

 岡田監督は評論家時代、記者席で試合を見ていた。記録員が試合中に判定している様子も見ており「(記録員が)スタンドの上の方からしか見えない。広島は土のグラウンドなんでね、イレギュラーとか。今はモニター見てるみたいですけど、そのへんでもうちょっとね」と提言した形だ。

 「場内アナウンスで試合前に記録員は誰々ですと聞くんですけど、顔と名前が合わない。グラウンドに降りて貰ってコミュニケーションをとるとかね、そういうのはしてほしいなというのはありますね」と要望し、「俺も昔、選手の時も名物記録員がいたんですが、そういう人と練習中にグラウンドで話をしたり、練習中にグラウンド降りてきて貰って『きょうのグラウンドはどうだ?』って。何かそういう会話をした記憶がある。そういうのもあって、もうちょっとコミュニケーションを取ったらどうですか?という話はしました」と過去のエピソードを交えた上で、NPBに訴えた。

 現在は映像技術も発達し、すべてのプレーをスローで解析することもできる。その中で時代の流れとともに、失われていったものが岡田監督の言うグラウンドを確認する作業、そしてコミュニケーションなのかもしれない。ヒット、エラーの基準を判断するのは人間。お互いが判定に対して納得できるように、選手と記録員の信頼関係構築が必要なのかもしれない。

 1本のヒットでタイトルの行方が変わる、一つのエラーで投手の防御率も変わる。「選手の生活を記録員が握っている」と言っても過言ではない。それだけに現場から判定に対して不満があったとしてもおかしくはない。

 以前、甲子園のグラウンドについて岡田監督に話を聞いた時も、現役時代のエピソードを交えて丁寧に教えてもらったことがある。「忘れることができないシーンがあってな。試合の中で遊撃を守っていた真弓さんの目の前で、いきなり打球がポーンとイレギュラーしたんよ。それが直接の敗因になったんかな。そしたら試合後、真っ暗闇の中で当時グラウンドキーパーだった藤本治一郎さんが、ショートのポジションを手でならしていたんよ。思いを込めるように丁寧にな」。その経験があるからこそ「正直、ビックリしたんやけど、こんな思いでグラウンドをならしてくれる人がいる。やっぱり大切にしなあかんと思ったよな」と訴え、試合開始時に守備に就く際、グラウンドの外から回っていく選手たちの姿に目を細めていたのを思い出す。

 大切なのは人間の信頼関係-。昨年、38年ぶりの日本一を達成した際、「温故知新」という言葉がよく使われていた。広辞苑では「昔の物事を研究し吟味して、そこから新しい知識や見解を得る」とある。今年67歳を迎える指揮官。阪神だけでなく、球界がより良い方向へ進んでいくために、あえて発信しているようにも映った。(デイリースポーツ・重松健三)

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