【スポーツ】ラグビー大学選手権3連覇の帝京大 絶対王者の強さの理由 岩出前監督から相馬監督に代わっても揺るがない背景とは
取材現場の裏側を描く企画「スポットライトの裏側」。13日に行われたラグビー全国大学選手権決勝で明大を34-15で破り、3大会連続12度目となる優勝を果たした帝京大の強さの理由を探る。第46回大会からの9連覇に続き、大会史上初となる2度目の3連覇以上を達成。2年前に岩出雅之前監督(65)=現帝京大スポーツ局局長=から相馬朋和監督(46)に代わっても強さは揺るがず、継続的に進化を続けている。その背景には、今なおチームを支える岩出氏の姿があった。
明大との決勝戦。7-0でリードしながら、落雷の影響で前半23分から約55分間の中断する予期せぬハプニングが発生した。ロッカー室では、相馬監督が試合再開までの過ごし方や戦術について指示する中、岩出氏が選手のメンタル面をケアしていた。「本当は80分で終わるところが、100分以上に延びた。自分たちにとってうれしいことだと考えれば大丈夫」。イレギュラーな展開に「どうギアを上げようか」悩んでいたフッカー江良颯主将(4年)は、岩出氏のアドバイスを受け「言葉の重みを感じた。仲間とプレーできる喜びをかみしめられた」と平常心を取り戻すことができた。
再開直後の前半25分、味方のトライがTMO(テレビジョンマッチ・オフィシャル)で取り消される嫌な雰囲気の中でも主将は焦らない。同26分にモールからトライを奪い、リードを広げ試合の主導権を握った。帝京大には、その圧倒的な経験値から選手に刺さる言葉を的確に伝えられる“ジョーカー”がいる。フィジカルや戦術だけじゃない、絶対王者の強さの一端が改めて分かった瞬間だった。
明大・神鳥裕之監督(49)にとっても、岩出氏は2年前の同大会決勝で、ともに監督として戦い敗れた因縁の相手。試合前に「まだ帝京大学の中でも影響力ある形で残られている」と警戒していたが、再び岩出マジックにはね返された格好となった。
完璧主義で悩める主将を救ったのも岩出氏の言葉だった。「前を見るのも大事だけど、後ろに仲間もいるから見失わない方が良い。年を越すまで後ろを見続けろ。決勝で全員が後ろを見なくても、ついてくるようなチームを作れ」。金言を受けた江良は、冷静にチームを俯瞰(ふかん)し続けた。140人超の部員全員がひとつになるように、実力、学年問わず積極的に意見を交換した。優勝が決まった瞬間、スタンドから喜びを爆発させながら降りてくる部員の姿があった。岩出氏の言葉、そしてスローガン「ONE HERAT」が体現された光景だった。
相馬監督がガッチリとチームの大部分を作り上げ、岩出氏がスッと余白を埋めていく。そんな役割分担が自然とできている。相馬監督は「学生や保護者の方たちも安心するし、2人並んで立っていることが重要なんだなと思う」と二人三脚に確かな手応えをつかんでいる。岩出氏も「石垣でいうと、大きい石は相馬監督が積み上げていけばいいと思う。僕は他のスタッフと一緒に小さい石を間に詰めていくような役割」とフォローに徹する。高く、強固な常勝軍団の石垣が、これからも挑戦者をはね返していく。(デイリースポーツ・松田和城)
◆相馬 朋和(そうま・ともかず)1977年6月5日、神奈川県大和市出身。現役時代のポジションはプロップ。東京高でラグビーを始め、帝京大を経てリーグワン埼玉の前身・三洋電機に入社。2005年に初めて日本代表入りし、07年のW杯フランス大会に出場するなど通算24キャップ。埼玉のヘッドコーチなどを経て、21年秋に帝京大のFWコーチ。22年春に監督に就任した。