【相撲】若隆景 右膝手術から完全復活への現在地 元関脇が3場所連続全休で幕下陥落も親方「こんなに早く治るとは」
大相撲初場所で元関脇の若隆景(29)=荒汐=が7戦全勝で幕下優勝を飾り、春場所(3月10日初日、エディオンアリーナ大阪)での再十両を事実上決めた。昨年4月に右膝靱帯(じんたい)の再建手術を受け、3場所連続全休明けからの復帰2場所目。完全復活へ、師匠の荒汐親方(元幕内蒼国来)が見たまな弟子の現在地と、描く未来の青写真とは。
降り注いだ拍手と声援の多さが、人気ぶりを表していた。初場所13日目。幕下優勝を決める7番相撲を終えた若隆景から「ホッとしています」という安堵(あんど)の第一声がもれた。
関脇だった昨年春場所で右膝を負傷。同4月に手術を受けた。復帰した同九州場所は5勝2敗。幕下相手に膝を気にしながらの相撲が目についた。初場所は一変した力強い内容で圧倒。荒汐親方は「先場所よりは全然いい。こんなに早く治るとは」と驚きを口にした。
順調にしるした完全復活への一歩。背景には綿密な稽古量の管理があった。「稽古はもう2日に1回。番数も多くやらない。なぜかと言ったら、1年後、2年後に逆の膝を痛める人が多い」。そう荒汐親方は説明する。
九州場所前は若隆景の意欲を尊重。「それが失敗だった。やりたいっていうからやらせちゃった」と悔やんだ。九州場所後から、稽古期間に相撲をとるのは1日置き、番数は12、13番以内に変更。状態の良さを感じていた本人はもっとやりたがったが、師匠は手綱を引いた。「『それが落とし穴になるからやめなさい』と。理解させるのも大事だし、話し合うのが大事。『あわてるな』と話しています」。理由を細かく説いて納得させた。
焦らず、慎重に。荒汐親方が見据えているのは「もう一回、上位に行ってもらいたいし、半年、1年後のことを考えてやっていきたい」と目の前より先。さらには、まな弟子の新たなスタイルの構築もにらんでいた。
「今までは膝を使った動きで相撲をとっていた。少し体重を上げて、真っ向勝負することも考えていて。玉ノ井親方(元大関栃東)みたいな相撲を目指してもいいんじゃないかな。直線的に真っすぐ。横から攻めるんじゃなく、どっしりした」。ケガを機に、130キロ台前半の軽量から脱却したスタイルを推奨。稽古を見て感じたそうだが、理由はもう一つあった。
「動いている相撲って若い時はいいけど、年をとると力士ってやっぱり動けなくなるんですよ。どっしりの相撲も29、30歳を過ぎてからやれば、長くとれるかなと」。自身の経験と知己から、力士としての寿命を伸ばすことも考えていた。
師匠が描く復活の青写真。「名古屋場所ぐらいになると、だいぶ戻ってくるのでは」と予想する。手術から1年以上が経過し、患部の違和感がなじんでくる頃。「8、9割まで、完璧にケガをしたのを忘れるぐらいになってくる」と期待を込めた。順当に番付を戻せば、7月の名古屋場所では幕内に復帰している可能性も十分にある。
1年前は大関候補筆頭だった男。若隆景は「膝をケガしてから、下がっての相撲はダメ。前に出る意識をもっと強くもって攻めていく」と自分の相撲を見つめ直した。これからが復活ロードの本番。パワーアップした雄姿を、ファンみんなが待っている。(デイリースポーツ相撲担当・藤田昌央)