【野球】なぜ山川穂高を取り巻く空気感に変化が生じたのか 入団発表直後の嫌悪感は薄れ、日増しに拍手と歓声が右肩上がりに

 ソフトバンク・山川穂高内野手を取り巻く空気感に変化が出始めている。国内FA権を行使してのソフトバンク移籍発表、入団会見時を底とするならば、日増しに山川を見つめるファンの視線は柔らかみを帯び、掛けられる声量と声の温かみも右肩上がりになってきている。

 キャンプ地の宮崎に足を踏み入れた1月31日。宮崎空港での歓迎セレモニーに臨んだ山川は神妙な面持ちを崩さなかった。待ち受けたファンからヤジが飛ぶことに覚悟を決めていたと思われるが、批判の言葉は一切なかった。

 昨年5月、知人女性への強制性交疑惑で書類送検されたが、嫌疑不十分で不起訴処分となった。個人的な騒動から昨季はわずか17試合の出場で8年ぶりの0本塁打に終わり、チームも5位に低迷した。故障者特例措置で国内FA権を取得したが、球団やスポンサーに多大な迷惑を掛けた。残留して恩返し-を美徳と考える向きが多い中、山川はFA権を行使した。

 FA権行使後、公の場でのファンに対する謝罪の言葉がなかったこともあり、批判はさらに渦巻いた。さらに、FAの人的補償を巡って西武が和田から甲斐野に指名選手を変更したとの情報が駆け巡ったことも重なり、山川が移籍さえしなければというファンの複雑な思いは増幅した。

 それでもだ。キャンプイン当日の1日、山川は西武に移籍した甲斐野に対し、「今回、僕のFAのことでチームが変わってしまって。忙しい中、バタバタさせてしまったのでおわびしました」と謝罪していたことを明かした。右腕も詳細こそ伏せたが、山川と連絡を取っていたことを公表し、「いい対決を」という前向きな答えにたどり着いたことで、バッシングが弱まったように思う。

 2日の屋外ロングティーでは108スイングで75本の柵越え。チームに柳田という規格外の打者はいるが、柳田とはまたひと味違う弾道。3度も本塁打王に輝いた長距離アーチストが描く放物線にファンはどよめいた。練習の合間には即席で10分間のサイン会を開催し、バットをプレゼントするひと幕もあった。

 そして3日。46スイングで4連発を含む13本の柵越え。ラストスイングで放った大きな一発にスタンドは盛大な拍手に包まれた。この光景に小久保監督は「お客さんの拍手で一番、彼は救われたんじゃないですか」と語るなど、ファンが山川に期待を寄せ、ソフトバンクの選手として受け入れた空気感が漂った。

 山川は言う。「試合をしっかりして、しっかり結果を出して、選手、監督、スタッフ、全員の人、ファンの人も含めて認めてもらう」と過去の不祥事を脳裏から消すことなく出直す決意を新たにした。

 人生を歩む時、誰にでも過ちはある。有名人だからこそ、道を踏み外した時の批判、バッシングは一般人よりも大きい。時に目を閉じたくもなるし、耳も塞ぎたくなるだろうが、決して避けては通れないし、避けてはならない道でもある。「試合で打てなかったら意味がない!」。FA移籍は安住の地ではなく、一番過酷な進路を選んだ可能性もある。できる限り多くの人に喜んでもらい、納得してもらうため、山川は重い十字架を背負ってこれからも前進していくのだろう。(デイリースポーツ・鈴木健一)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

インサイド最新ニュース

もっとみる

    ランキング

    主要ニュース

    リアルタイムランキング

    写真

    話題の写真ランキング

    注目トピックス