【スポーツ】なぜ卓球の五輪代表発表で厳しい質問が続出したのか 納得の人選だからこそ新選考システムがはらむジレンマが浮き彫りに
卓球のパリ五輪残り1枠の団体代表が5日発表され、注目を集めた女子は15歳の張本美和(木下グループ)が初の夢切符をつかんだ。一方で東京五輪メダリストの伊藤美誠(スターツ)は落選。日本協会が設定した選考ポイント、世界ランクともに伊藤がわずかに上位だったが、直近大会で見せていた15歳の快進撃を鑑みれば、納得の選出だった。しかし、発表会見の場では詳しく選考理由を問う厳しい質問も相次いだ。それは決して選ばれた選手を疑問視するものではなく、パリ五輪に向けて日本協会が独自に採用した新選考システムがはらんできたジレンマに向けられたものだったと見る。
シングルス代表の早田ひな、平野美宇に続く3枠目の団体代表として、張本美の名前が読み上げられた。昨年11月の選考会で優勝し、12月のWTTファイナル名古屋では惜敗したものの世界女王・孫穎莎(中国)と互角に打ち合う大接戦を演じ、最終戦の全日本選手権も堂々の準優勝。いずれも精彩を欠き、早期敗退に終わった伊藤とのコントラストは残酷で、現状だけを見れば妥当な選択だった。女子代表の渡辺武弘監督は「悩みで、悩んだ」と難しい選考だったことを明かしつつ、ダブルスでの戦績も踏まえながら「五輪は海外選手と戦う。昨年1年間の大会の結果や戦いぶりを見て、本番で勝てるのは張本選手だと総合的に判断した」と説明した。至極正論ではあるものの、2年間目撃してきた選手たちの労苦を思えば、どこか唐突にも聞こえた。
選考ポイントはあくまでシングルス2枠を決めるためのもので、3枠目の団体要員はダブルスの相性も踏まえて強化本部が選ぶことができる。ただ、世界ランキングを基準にしていた以前の選考過程と大きく異なり、今回は選考期間(以前は1年)から対象大会、ポイント配点に至るまで日本協会自ら設定したという事実は、もっと重く扱われるべきだったのではないかと個人的に思う。
五輪本番で戦うのは海外勢。にもかかわらず、今回の選考では世界ランクは度外視され、約3カ月に1回ペースで行われる国内選考会が中心となった。当初コロナ禍で安定的な国際ツアー開催の見通しが立たなかったことや、上位大会への出場選手が限られることから「公平性」を名目にした措置だったが、ルールも違うTリーグまで選考対象化。極端な例では、世界ランク3傑の中国トップ選手に1勝を挙げた10点(5ゲーム制)と、今季のTリーグで5勝する10点は、選考レースでは“等価”として扱われた。強化を目的とするにはいびつとさえ感じる独自の価値相場の中で、「過密日程」の指摘にも目をつむって2年間争ってきた。国内選考を優先して海外大会に顔を出さなくなった選手もいる。これほどドラスティックに“磁場”をいじったにもかかわらず、団体代表を選ぶ段になっては「海外で勝てるから」と簡潔な説明で通すのは、頭では理解するものの、ふに落ちないものも感じずにはいられなかった。
一つ象徴的だったのが男子の団体代表選考だった。結果的には選考ポイント3番手の篠塚大登(愛知工大)に落ち着いたが、同じ左の松島輝空(木下アカデミー)が最終候補で、全日本選手権での直接対決が最後の決め手となったことが明らかになった。16歳の松島は世界ランクは日本勢3番手に急浮上したが、国内選考ポイントは14番手。終盤には選考会に出場せず、国際大会を優先したこともあった。ダブルスの観点もあるとはいえ、何のための選考レースだったのか疑問が湧く。逆に言えば、卓球のプロである強化現場から見て「五輪で勝てる」「本当に使いたい」選手が、選考ポイントという“ものさし”に反映されないという点に最大の問題があったのではないか。
無数の汗と涙がこぼれた2年間の長距離走が終わり、苦しみながらも早田、張本智の両エースが独走して大団円を迎えた。しかし、最後の団体戦代表の選出では「中国を倒して金メダルを獲得する」という目的と、国内争いを繰り返すという手段がかみ合ってないことが示唆された。伊藤が落選後「(代表が)張本選手なら納得」と受け止めたことはせめてもの救いとなったが、次の五輪代表選考基準の策定に向けては、じっくり時間をかけて課題を検証してほしい。(デイリースポーツ・藤川資野)