【野球】あえて「血まめ」を作ってキャンプインの理由とは 裏方にも重要なオフの過ごし方 元ドラ1の阪神打撃投手に聞く

 特打で投げ込む嘉勢打撃投手
 豆ができた嘉勢打撃投手の左指
2枚

 球団には首脳陣や選手をサポートするため、多くの裏方が陰で奮闘している。その中で打撃投手はどんな一日を送っているのか。阪神の嘉勢敏弘打撃投手(47)にオフの過ごし方や日々のケア、苦悩などを明かしてもらった。

 左手の人さし指と中指にできた血まめがオフの成果だった。嘉勢打撃投手は固くなった指先を見せながら、誇らしげに言った。「この血まめは痛くないから」。春季キャンプ中にできたものではない。1月に投げ込みを開始し、あえて血まめを作って沖縄入りした。

 打撃投手とはフリー打撃や特打で打者に投げる人のこと。MLBではコーチが投げるため、存在しない。日本特有の職人でもある。彼らは、どんなオフシーズンを送っているのか。当然、人によって調整法に違いはある。その一例として、嘉勢さんが教えてくれた。

 阪神では11月に秋季キャンプが終了する。12月は球を握ることもせず、完全にノースロー。甲子園に足を運び、肩を中心としたウエートトレーニングを行う。そして、1月から投げ込みを開始。逆に、投げ始めると肩や肘に張りができることを避けるため、ウエートトレーニングは行わない。1年間を戦うためには、この2カ月が重要になってくる。

 05年から阪神で打撃投手を務め、今年は節目の20年目。30代の頃と比べて、筋力は落ちている。何とか維持するため、数年前からウエートトレーニングを始めた。「もう筋力アップは無理としても、落とさないように維持やね。一年でも長くしようと思って、やり始めたのかな」。走り込みや投げ込みだけでなく、強い体作りを課した。

 1日に平均200球を投げるという。アイシングは筋肉が固まり、連投ができないためNG。ケアは風呂やサウナでぬくもりながら、ほぐすこと。この繰り返しで日々の登板につなげている。「張ってるとか、ちょっと痛いだろうが投げないとあかんから」。より良い球を投げるため、最善の策を取っている。

 冒頭に先述した血まめは指にかかっている証し。これが、2月のキャンプでできてしまうと痛みで投げられない。1月の投げ込みで作ることが必要不可欠だ。今年からは遠投も取り入れた。「俺らはあの距離(マウンドより少し前から投げる)でいいと思ってたら、塁間のキャッチボールで収まってしまう」。あえて長めの距離でウオーミングアップ。その結果、肩甲骨を大きく使えるようになり、筋肉をうまく動かすことで張りも少なくなった。

 打撃投手は体だけでなく、メンタルも大事。サウスポーの嘉勢さんにとって、対左打者へは死球の恐怖もある。「心臓が強くないとあかんから」。けがをさせても、ストライクが入らなくてもダメ。時には選手の状態を見極めながら、最適な球を投げている。

 19年にはプレミア12、21年には東京五輪で日本代表の打撃投手も務めた。トップ選手に共通するのは、どんな球でも対応すること。「そらすごいよ。何でもアジャストしてくれるから、逆に投げやすい」。今の阪神では中野が同じタイプ。「あいつ、何でも打ってくれるよ」と笑う。どこに投げてもいいという安心感は、投球のリズムにもつながっていく。

 岡田監督はキャンプ前日のミーティングで裏方さんへ言葉を送った。「縁の下の力持ちだけど、選手の力になって頑張ってもらいたい。よろしくお願いします、裏方さんも」。優勝を目指すのは選手だけではない。裏方さんもそれぞれのプライドと覚悟を持って、仕事と向き合っている。(デイリースポーツ阪神担当・今西大翔)

 ◇嘉勢敏弘(かせ・としひろ)1976年10月6日生まれ、47歳。兵庫県出身。現役時代は左投げ左打ちの投手、外野手。北陽から94年度ドラフト1位でオリックス入団。00年に外野手登録ながら投手でプロ初勝利を挙げるなど二刀流で活躍。04年現役引退。05年から阪神で打撃投手。

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