【スポーツ】なぜ宮城野親方に重い処分が下ったのか 不祥事対応への認識の甘さが“命取り”に
大相撲の宮城野親方(元横綱白鵬)が、弟子である幕内北青鵬の暴行問題の責任を問われ、2階級降格と減俸処分を受けた。所属する伊勢ケ浜一門が宮城野部屋を預かり、元白鵬を師匠・親方として指導・教育することも検討。最近の暴行事案の中でも師匠として重い処分となったのには、日本相撲協会が重視するポイントがある。
相撲協会のコンプライアンス委員会は、処分の対象とした宮城野親方の違反行為を4点挙げている。北青鵬に対する監督不十分で暴行を防止できなかった「監督義務違反」、22年名古屋場所中に暴行の事実を知りながら、コンプラ担当理事らに報告しなかった「報告義務違反①」、昨年九州場所中の暴行を速やかに報告しなかった「報告義務違反②」、コンプラ委の調査に先立つ部屋内でのヒアリングに部外者を同席させ、口止め工作など事実認定をゆがめさせる危険性を生じさせた「調査協力義務違反」だ。
重い処分となった要因は、2つの報告義務違反と調査協力義務違反が大きい。最近では、22年12月に弟子の暴行が明るみに出た伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は理事を辞任。翌1月には役員待遇委員へ2階級降格となり、審判部の要職からも外れた。監督責任に加え、10月に事実を知りながら報告しなかった点、さらには17年にも横綱日馬富士の暴行を防げなかったことなどを指摘された。
一方で、23年5月に弟子の暴行が発覚した陸奥親方(元大関霧島)は減俸処分。事業部長を辞任も降格はなく、理事にとどまった。被害者から4月に申告を受けた直後に報告したことが「隠蔽(いんぺい)を疑わせる事情までは認められない」と考慮された。
相撲協会は18年12月に「暴力禁止規定」を制定。20条にわたって禁止行為や懲戒処分などを定めた。同時に常設のコンプラ委を発足させ、事案を訴える窓口を広げた。それだけに、暴行を把握すれば速やかな報告が師匠には求められる。伊勢ケ浜部屋の事案があった際、芝田山広報部長(元横綱大乃国)は「暴力がゼロになるのが一番いい」と根絶を目指す姿勢を示しつつ「しかしながら、怒りや感情も人間社会につきものである以上難しい。起きてしまったら火が大きくならないうちに、協会に報告することが一番大事」と話していた。
コンプラ委は、宮城野親方に対して「現役時代に3回の処分を受けていることを勘案する」とした。現役引退時、協会のルールを順守する旨の異例の誓約書を提出して親方になることを認められた経緯もある。それらも含めて今回の事態を招いたことに、協会は「師匠としての素養、自覚が大きく欠如している」と認定、一門による部屋預かり検討という『師匠剥奪』の厳罰につながった。
芝田山広報部長は「報告義務違反に対し、重要視する気持ちが薄かったのだろう」と推測。現役時代の処分も勘案されたことには「以前にもいろいろあったのだから、注目される立場であるだけに、もっと慎重に気をつけてしっかり行動してくださいよ、ということ」と説明した。いくら現役時に輝かしい実績があっても弟子が問題を起こせば、師匠は厳しい目から逃れられない。不祥事対応への認識の甘さが、宮城野親方自身に重くはね返る結果となった。(デイリースポーツ・藤田昌央)