【野球】開幕投手の投手の早期公表は試合を面白くするのだろうか 中日・立浪監督の姿勢に名将ノムさんの姿がダブる
果たして開幕投手の早期公表は開幕戦を面白くするのだろうか。3月29日に行われるプロ野球の2024年開幕戦に向けて、12球団の監督が続々と開幕投手を明らかにしている。その中で、珍しい存在が中日・立浪和義監督(54)だ。同監督はすでに開幕投手を誰にするか決めているが、現段階ではあえて口にしていない。試合前日になれば先発投手名が公表されるが、立浪監督の姿勢は今季にかける意気込みも感じられる。
先発投手が前日に判明する「予告先発制度」が両リーグで採用されてから、12年目を迎える。パ・リーグは1994年から全試合で導入され、当初は採用を見送っていたセ・リーグも2012年から導入を開始し、交流戦も含めてレギュラーシーズンの全試合で先発投手が発表されることになった。
予告先発は営業的なメリットが大きいともいわれ、始まった。人気、実力ともに兼ね備えた投手が先発することが前日に判明すれば、それを目当てにするファンの来場は増える。また、双方のチームにとっても、試合前のミーティングで登板の可能性のある何人かの投手のデータをチェックする手間も省ける。
先発を発表していない時代は、2~3投手への対策を立てながらも、予想外の投手が出てくることもあった。そのため、監督はスタメンに登板予定のない投手の名前を書き込み、初回から代打などを送る「当て馬」と呼ばれる作戦を取ることがあり、実際にその「当て馬」を何度も目の当たりにした記憶がある。
予告先発となれば正々堂々の真っ向勝負だが、戦力の整い、不動のメンバーでペナントレースを乗り切れる強いチームにとって有利に働くことが多い。ヤクルト担当時代、当時監督だった故野村克也氏は「野球は頭、弱いチームが強いチームに勝つためにはときとして奇襲、奇策も必要」と話していたことを思い出す。そんなノムさんだけに、予告先発には異議を唱え、楽天監督就任1年目の2006年の12球団監督会議では「相手の先発を教えてもらうと監督が楽。そういうことだから、後継者が育たない」などを理由に廃止を主張したこともあった。
先発の読み合いは野球の醍醐味(だいごみ)のひとつと考えている。取材していた1985年の広島対阪神(広島市民)の開幕戦当日までの数日間を思い出す。この年は現広島OB会長の大野豊氏(68)が初の開幕投手の座を射止めたが、前年まで3年連続で開幕投手を務めた故北別府学氏との争いだった。当時の監督の古葉竹識氏の指示でメンバー交換の直前まで2人の投手はまったく同じ調整法、行動パターンを取っていた。練習を終えた引き上げてくるタイミングまで一緒で、発するコメントもうり二つだった。スタメン表を交換する時点まで相手チームも困惑しただろう。大野氏は阪神を相手に延長10回を一人で投げきり勝利投手になっている。
先発を読み間違えても必ず負けるわけではない。だが、右投手、左投手の違いによってはその後の選手起用に多少の齟齬(そご)が生じる可能性もある。ルール上、前日に先発投手が判明するのは仕方がない。だが、直前までその名前を明かさず、相手チームを悩ませる指揮官がいてもいいと思う。立浪監督にノムさんの姿がダブる。(デイリースポーツ・今野良彦)